「はい。もうすぐ学芸会ですねー。今年の三年三組は、演劇をやりまーす」
わー、っとクラス中から歓喜の声があがる。
「しかも、お話は、先生が考えました!!もう、最近先生、これで寝不足になっちゃって。実は授業中も眠かったんよー」
歓喜の声とともに拍手が起こる。例の爆弾発言(宣戦布告?)の翌日午後のHR。そろそろ学芸会の準備が始まるのだ。
「先生!!どんなお話なん?」
「王子様とかお姫様とか、海賊さんが出てくるお話です!!剣で戦ったり、かっこいいぞー!!」
歓喜の声と拍手と口笛がクラス中に巻き起こる。
興味無さ気にぼんやりしている平次だが、隣の和葉は目を輝かせて拍手をしている。
「他には他には!!??」
「主役はお姫様!!でも他にもお姫様は一杯出てくるの」
「魔法使いは?」
「魔法使いは出てきません。ごめんねぇ」
話の内容より配役に興味がある生徒からの質問攻めに、台本を配る前にキャストを黒板に書き始める。
・お姫様(主役)
・王子様
・隣の国のお姫様たち(5人)
・王様
・王妃様
・侍女
(中略)
・海賊のキャプテン
・海賊(10人)
(中略)
「先生!!」
亜由美が元気よく手を上げる。
「はい。亜由美ちゃん、なんですか?」
「王子様は、箕輪君がええと思います!!」
歓声とともに拍手。振り返ると当の箕輪も満更じゃない顔しながら「えー、僕ー?」などと謙遜している。
いつもレースやらフリルやら可愛らしい格好をしている亜由美としては、当然自分がお姫様をやる心積もりに違いない。
割と大人しいタイプなのでこんなことは珍しい。
「箕輪君、推薦されてますけどどうしますか?嫌だったら別にいいけど、どうかなあ」
「箕輪君がいいと思います!!」
「私も!!」
女子の声が次々にあがる中、男子も別にそれでええんちゃうかーという意見が圧倒的に多い。
無論平次もその一人。何しろ興味ない。
自分としては王子なんてどうでもよく、どうせやるなら海賊、しかも折角ならキャプテンがええなぁ、くらいのものである。
「僕にはそんな大役は……」
恥ずかしそうに立ち上がる箕輪は、更にクラスの歓声を受けてわざとらしく頭をかく。
「じゃあ」
もったいぶって言葉を切る箕輪を振り返った平次の視線が、その勝ち誇ったような視線とぶつかった。
「遠山さんが、主役のお姫様をやってくれるなら、僕王子様をやります」
一瞬、クラス全員が言葉を飲み、視線が和葉に集中する。真っ赤になった和葉が椅子を倒して勢いよく立ち上がった。
「あ、アタシ無理や!!そんな、お姫様なんて!!主役なんて、できへん!!」
「遠山さんがやらないなら、僕もやりません」
「そんなん。アタシなんか、関係あらへんやん!!」
泣きそうになってまた隣の幼馴染に視線で助けを求める。
「せやなー。和葉、お姫様って感じやないしな。海賊の方が、似合うんちゃうか?」
平次の中途半端な助け舟に激しく頷き和葉が同意する。
しかし、平次が更に言い募るより前に、担任の脳天気な声が教室に響いた。
「あ、遠山さんがお姫様やってくれると嬉しいなあ!!先生。実はねえ、丁度イメージに合うのよ」
「で、できへんもん!!アタシ!!お姫様なんて、無理やし。主役は、もっと無理や!!」
「えーー。先生からもお願い!!お姫様ね、カッコいいのよ〜。剣を持って一緒に戦っちゃうの」
「演技なら僕が教えてあげるし!!」
「大丈夫よ、遠山さん、ここ一番に強いし」
「なんでお前が演技なんて教えられんねん!!関係ないやろ!!」
「私!!私お姫様やりたい!!」
「僕はアメリカで劇団に入ってたんでね。外野は引っ込んでてくれないか?」
「どう?遠山さん」
「私!!私がお姫様やるの!!」
「外野やと!!??」
「アタシ、アタシできへんもん!!」
「あ、じゃあ私は隣の国のお姫様!!」
「僕、王様がいいなあ」
「海賊のキャプテンは服部君がええと思いまーす」
もう、凄い騒ぎである。
結局。主役のお姫様のみが和葉と亜由美の決選投票となり、その他は自己・他己推薦含めて配役が決定した。
・お姫様……遠山和葉
・王子様……箕輪昇
・海賊のキャプテン……服部平次
投票で公正(?)に決まった以上、和葉はあきらめたのか見苦しく駄々をこねる真似はしなかった。(亜由美は暫く憮然としていた)
さすがに気になったのか、何度も声をかける担任に健気に「決まったんやから、頑張る」と決意表明をする。
平次も、当然のことながら面白くなかったが勝ち誇ったような箕輪の視線を無視して黒板を凝視する。
「じゃあ、和葉ちゃん、よろしくね」
「……こちらこそ、や」
「はい、拍手〜〜〜〜〜〜〜」
先生の一言で教室から拍手が沸き起こり、憮然としていた亜由美も諦めたように肩を落として手を叩く。平次も気のない拍手を送る。
こうして、波乱万丈の配役決めは終わった。同時にチャイムも鳴り、先生が台本を慌てて配って連絡事項を伝え、HRは終わった。
***
「僕の勝ちみたいだね、服部君」
「なんでやねん」
今日も他の女の子を断った箕輪は満面の笑みで平次に声をかける。
「俺は別に、王子やりたいなんて一言も言ってへんぞ」
「ま、服部君が王子様じゃ、似合わないもんねぇ」
「やかましいわ」
「残念だったね。お姫様を守る騎士の役はこの僕に譲って、君は海賊でもなんでも暴れててくれ」
ずい、と平次と和葉の間に割ってはいる。
「和葉ちゃん、頑張ろうね」
「う、うん」
「僕、アメリカにいる時に向うの劇団に入ってたんだ。わかんないことあったらなんでも言ってよ」
「うん」
「服部君も、役作りに困ったら聞いてくれてかまわないよ」
「いらんわ。んなもん」
「ま、君の場合地でいけそうだけどね。黒いし」
「関係あらへんわ。そんなん」
信号が近づく。あとホンの少しの辛抱だ。
「でも、アタシ、平次の海賊はきっとカッコええと思う、よ」
「和葉ちゃんは優しいねえ。いいんだよ。気を使わなくて」
「そんなん、ちゃうよ」
「いいんだよ。和葉ちゃんはカッコいい王子様の僕だけを見ててくれれば」
平次の背中に悪寒が走る。自分で自分をカッコいいと冗談でなく言えるその神経が不気味だ。
和葉も困ったように曖昧な返事を返す。
「明日から毎日1時間学芸会の練習があるなんて、僕は本当に幸せだよ」
「勉強、嫌いなん?」
「勉強は大好きだよ。だけど僕は和葉ちゃんの隣にいられるだけで幸せなんだ」
はーーーー。さよけーーーーーーーーーーーー。
交差点まで。交差点まであと数歩だ。
「僕は信じてるよ。いつか和葉ちゃんが僕の気持ちをわかってくれる日が来ることを」
「え、ええと」
「この劇を通して、きっと僕のよさを分かってくれる、僕のことを好きになってくれるって」
「そ、そんなん、わからんよ」
「僕にはわかるんだ。だって最初に和葉ちゃんを見たときに、僕と和葉ちゃんの間に赤い糸が見えた……」
交差点だ!!
箕輪の歯の浮くような薄ら寒い数々の台詞をなんとか聞き流していた平次の我慢が限界を突破する。
強引に箕輪の向う側にいる幼馴染の細い腕を取ると、勢いよく自分の方へ引く。
よろめいた和葉が転がるように平次にしがみつくとその肩を庇うようにして自分の後ろにやる。
「乱暴だなあ、服部君は。和葉ちゃんが驚いてるじゃないか」
「やかましいわ」
自分の肩にそっと添えられた和葉の手に、きゅっと力がこめられる。
「こいつは、俺の幼馴染や。お前のんちゃう。しゃあないから劇の時は貸したるだけや。覚えとけ」
というわけで、和葉ちゃんがお姫様ですよ。きゃーー。かわいいーーー<こらこら
後腐れないように亜由美ちゃんを大人し目の性格にしたら話が落ち着きました。よかったよかった。
歯の浮くような台詞を考えるのは結構楽しいですね。意識的にありきたりな台詞捌かせてます。所詮小学生。
最後にちょっと平次に言わせてしまったデスよ。個人的には萌えです。独占欲平次。
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