そもそも、初対面からいけ好かない奴だとは思っていた。
父親が外交官とかでアメリカ帰り。転校初日の挨拶は流暢な英語で行われた。
クラス中から感嘆の声が漏れる。正直、凄いと思ったが、それをひけらかす態度が気に食わない。
それでもまあ、そんなことはどうでもいい。問題は。
「和葉ちゃん、図書室に行きたいんだけど案内してよ」
昼休みも放課後も、隙あらば和葉にちょっかいかけようとする。平次としては面白くない。
何しろ遠山和葉は平次にとって大事な「幼馴染」兼「相棒」なのである。
ドッジボールにしたって何にしたって、遊ぶ時には和葉がいないとつまらない。
何をさせても器用にこなすし、運動神経も抜群。下手な男子よりもよっぽど骨がある。和葉が居ないと張り合いがないのだ。
和葉も和葉や。あんな男女放っといて、外で遊ばんかい。
心の中で悪態をつきつつも、根が優しいクラス委員の幼馴染が人の頼みを断れないことはさすがの平次もうっすら分かっている。
大体、毎日毎日図書室に行ってるのに場所覚えない奴がおるか!!あんなん絶対嘘に決まってる。
そもそもなんで図書室なんや!!まじめさアピールか!!??くそ!!
更に最近は帰りにも一緒に帰ろうとする。幸い学校を出て一つ目の信号で別れることになるのだが、その数メートルが鬱陶しい。
しかも奴一人でも鬱陶しいのにクラスの女子が2,3人、必ずついて来る。毎日入れ代わり立ち代り奴の家に遊びに行っているらしい。
信号では必ず、「一緒に」と誘う奴と「また今度」と断る和葉とのやり取りで時間を取られる。
今のところ、平次が助け舟を出すほどしつこくは無いのだが、面白くないことこの上ない。
そんな転校生が爆弾発言をかましたのは、珍しく下駄箱で他の女の子を断ってるな、と思ったある日の帰り道。
校門を出るか出ないかのところでニッコリ笑って。
「和葉ちゃん、大きくなったら僕のお嫁さんになってよ」
***
転校生の名前を箕輪昇という。少女のように整った顔立ちで、色が白く、やや薄い色素の髪は緩やかにウェーブ。
ずっと東京とアメリカを行き来していたらしく、口から出るのは取り澄ましたような標準語と英語のちゃんぽん。
口癖は「レディファースト」で戸を開けたり椅子を引いたりと女子には滅法親切だ。
その反面男子は視野にも入っていないらしい。
頭もよさそうだし運動神経もよさそうだ。女子がキャアキャア言うのはまあわからなくないし、どうでもいい。
遊び相手を取られなければ、平次にとってはまさにどうでもいい存在だったに違いない。それが。
「お嫁さんて、アタシそんなんわからんわ」
「今すぐじゃなくていいんだよ。大きくなってから。和葉ちゃん、僕のこと嫌い?」
思わず足が止まった所を詰め寄られて、和葉は照れるというより困る一方で、いつもはすっきり伸びた眉がすっかりハの字だ。
困りきって泣きそうになりながら隣の幼馴染に助けを求める。
「平次ぃ。どないしよう」
幼馴染というだけで、平次と和葉の間で明確に結婚の約束があるわけでは無論ない。
和葉としてはただ単に困った時の平次頼みという程度だった。
が、箕輪がそれをどうとるか、となると別問題である。常々気になっていた、意中の彼女の幼馴染に鋭い視線を向けてくる。
ガン垂れてくるとは、ええ度胸やんけ。
喧嘩になれば勝つ自信がある。その視線を全身で受けとめて、平次はずいっと一歩前に出た。
しかし箕輪は両手を小さく上げて降参のポーズをとると、軽く笑った。
「僕、暴力は好まないんだ。力で和葉ちゃんを側においても意味無いからね」
なんやそりゃ!!俺が和葉と一緒におるのに力も何も関係あらへん!!単なる幼馴染や!!
更に一歩出ようとする平次を無視して箕輪は素早く和葉の手を取ると、その瞳を覗き込むようにして笑った。
「時間はまだまだあるし。和葉ちゃん、僕諦めないからね」
最後にもう一度平次に鋭い視線を投げかける。宣戦布告のつもりなのかもしれない。
和葉が答えに困っていると素早く身を翻すと「また明日」と爽やかな笑顔を残して走り去る。
呆然と見送ったその後姿が見えなくなってから、和葉の小さい手が平次の服の裾をきゅっと握った。
「平次。どないしよう」
「アホ。あんなん無視しとけ」
いきなり現れてお嫁さんになってもないもんだ。バカバカしくて相手にする気も起こらない。
軽く頭を小突くと思案顔ながらも和葉は安心したように笑った。
はいー。オリキャラですよ。名前考えるのは面倒ですよ。箕輪昇はなんとなく頭に浮かんだ名前つけたですよ。
彼の外見のモデルは白馬探氏でございますが性格は全然関係ありません。多分。アメリカ帰りだしね。
次に出てくる亜由美ちゃんは歩美ちゃんから来てます。なんて安直。
珍しく続くですよ。頑張れ平次。先は長いぞ。
→承
←戻る