気にならない。気にしてない。関係ない。
天下の鈴木園子様がそぉんなこと、気にするわけないじゃない?
そう言いながらも。
でも、やっぱり。ちょっと。
この微妙な恋心。我ながら、乙女心は複雑怪奇だ。
***
昼休みの屋上。中間試験も終わり、見たくなかった結果も受け取った。自分的にはまあ、そこそこだったけど、クラスメイト達にはそれなりの悲喜交々もあったり。
だけどそれもこれも全て終わった今日この日。学校の雰囲気はどことなく浮ついている。
わけても浮ついているのは……。正直に認めよう。きっとこの鈴木園子様だ。
「園子、顔が笑ってる」
「あら、そう?」
蘭が少しだけ眉を顰めて苦笑する。さらりと返したものの、自分の口の端が緩みまくってることくらい気付いてる。
でも仕方がないじゃない?
「いーじゃなーい?今あたし、最高に幸せなんだもん」
「何言ってるのよ」
蘭の膝の上のお弁当は蘭の手作り。あたしも見習いたいものだが……朝30分も早目に起きるなんてとんでもない。今日のお弁当は花嫁修行中の姉の手作り。
「最高、になるのは明後日の日曜日でしょ?」
「んー、まあ、そう言われればそうだけどぉ!!でもこの、その瞬間を待ち侘びるドキドキ感!!そこがまた最高なのよぉ」
「まあ、それはわからなくもないけど」
「蘭だってそうでしょう?新一君には会えないけどぉ。今度会えるかもしれない、ああ、会ったら何を話そう、何をしよう、どんな服を着て行こう、どんな鞄を持っていこう……!!ああ、もう、蘭、幸せ〜〜〜ん」
「そ、そんなんじゃないわよ!!だ、第一あいつに、いつ会えるかなんて……」
ふっと曇る蘭の横顔に少し反省。でも、こんな切ない表情も、蘭はイイんだな。これがまた。
「そりゃ会えば幸せだけどぉ?会えるまでのドキドキ感。これが最高なのよ!!」
「わかったわかった。わかったからお箸握りしめて力説してないでさっさと食べようよ。……で?どこに行くか決めたの?」
「それなのよ」
立ち上がって園子はなおも力説する。
「候補はもう決めてあるの。だって、真さんなんだかんだで全然時間取れないから遠出できないし。となると、トロピカルランドか……水族館、天気予報は晴れだから海を見に行くのもロマンチックだしぃ〜。たまには公園をお散歩するのもイイと思うわけ。どう?」
「そうねえ。真さんだと、海とかハイキングもいいかもね」
「でもやっぱりトロピカルランドも捨て難いじゃない?水族館も、今杯土水族館でやってるシャーク展がちょっと気になるしぃ」
「へ〜、そんなのやってるんだ」
「そうなのよ!!時間的にトロピカルランドは難しいかなあ……。ああでも!!デートコースに遊園地はお約束で外せないのよね!!蘭と新一君も行ったくらいだし!!」
「わ、私達のは別に、デートとかそういうんじゃ……」
「なぁに言ってるのよ。二人でジェットコースターとか乗っちゃって?怖くて手なんかぎゅっと握っちゃって?きゃ〜〜〜新一怖〜〜〜い、なぁぁんて言っちゃったりしたんじゃないの?」
「し、してないわよ!!そんなこと」
「ま、いいわ。とにかくホント。迷うのよねぇ」
大体。久しぶりの帰国だと言うのにあっちこっちに引っ張りダコで全然時間が取れないのだから切ない。
そりゃ、家族だって会いたいだろうし高校の恩師にだって挨拶に行かなきゃいけない。留学を支援してくれてる人達だっているわけだし……。
そんな中で精一杯時間を作ってくれたのは、わかってる。
だから貴重なこの時間。しっかり満喫しなければいけないのだ。それだけに。
「は〜。乙女の悩みは尽きないわ〜ん」
「いいじゃないの。悩んでる間も最高に幸せなんでしょ?」
「そうなのよ!!トロピカルランドにしようかしら〜〜。ああ、それとも海?初夏の海岸を二人で歩く……ああ!!もう真さんったら〜〜〜ん」
「……どんな想像してるのよ」
「水族館も捨て難いわ。真さん、魚はやっぱり色々詳しいんですもん。ああ!!でも公園の芝生で手作りのお弁当とか……。「真さんの為に作ったの!!まだ下手だけど……食べて!!」「嬉しいです。園子さん。下手だなんてとんでもない……とっても美味しいですよ。園子さんはいいお嫁さんになりますね」「やだ、もう真さん!!結婚なんて早いわよ〜〜〜」なんて?なんて?もう、どうしよう〜〜〜〜〜!!」
「はいはい。とにかく座ってお弁当食べなよ、園子」
ヒラヒラと手で座るように指示されて。園子は漸く座るとお弁当箱を広げた。
「ごめんごめん。明日の映画、何見に行くか決めるのも兼ねてお昼は屋上にしたのにね」
「……別に教室でも決められたと思うんだけど」
「ダメよ。映画の無料招待券は二枚しかパパに貰えなかったんだもん。他の子断るの、悪いじゃない?かといって変に割り勘にするのも面倒くさいし」
「まあ、そうだけど。でもだったら、映画、真さんと行けば?」
「ダメダメ。洋画はあっちの方が公開早いし、邦画は今いまいちいいのがやってないし」
「あ、そうか」
「それにあたし。勿論真さんとのデートも大事だけど、蘭とのデートも大事だもん」
「もう、園子ったら。で?何見に行く?」
蘭は鞄から出した雑誌をパラパラと繰る。映画の記事は後ろの方。しかし、ふと雑誌の中頃で手が止まった。
「なぁに?なんか面白そうな記事?」
「園子。京極さんて、血液型何型なの?」
「知らないわよ。そんなの。どうして?」
「うーん。丁度いいかな、って思って。ほら」
蘭の指差す先を覗き込む。
『今週の血液型別お勧めデートスポット』
「なあに?これ」
「今週の血液型別ラッキースポットだって。相手の男性の血液型に合わせてデートスポットを選べば、二人の関係は急接近!!……だってよ?」
「なにそれ。そんな占い、あたしと真さんには無用だわ〜。愛は全てを越えるのよん」
「まあね。信憑性には欠けるけど、でも迷ってるなら参考にはなるんじゃない?ほら。丁度遊園地、水族館、公園、海の四択だし」
「あら。ホント」
この偶然。思わず園子も乗りだして記事を読む。
「A型の彼なら今週は遊園地がラッキースポット。ジェットコースターにお化け屋敷、観覧車に乗れば二人の愛が育ちます。反対に、アンラッキーなのは公園。些細なすれ違いから気持ちに溝が……」
「B型の彼なら今週は海がお勧め。手を繋いで海岸を歩けば二人の仲は急接近。寄せて返す波のように二人の愛は深まります。アンラッキーなのは水族館……なにこれ。おっもしろぉい!!アンラッキーまで書いてある」
「ホントだ……。ごめん、気にしないで。で?映画はどうする?」
「そうねぇ……」
慌てて雑誌のページを繰ると、二人は映画情報に見入った。
***
星座、血液型、名前。山のようにある相性占い。
嫌いじゃなかった占いが、怖くて出来なくなったのは最近の事。
だって、真さんとの相性が悪かったら、やっぱりちょっと悲しいから。
所詮は占いだし。占い結果がよくなかったクラスメイトが今でも彼氏とラブラブだったりもするかから、信じてるわけでもない。けど、全く信じてないわけでもない。
どうしたってやっぱり、少しは気になってしまうから。
だから。
携帯を手に今日何度目かの逡巡。遠い異国に居る京極真と生活時間帯が合うタイミングは多くない。
電話をするなら今。血液型を聞くなら今。いずれわかる事だもん。
だけど。
もし知らないうちにアンラッキースポットを選んでしまったら?
関係ない。そんなの信じない。鈴木園子様の愛は、そんなものには左右されない。
かといって、デートが台無しになっちゃったら、と思うと……。
携帯電話を片手に。園子はもう何度目かわからない寝返りを打った。
「つまり」
誰も居ない部屋で天井に向かって一言。
「関係ないところに行けばいいんだわ」
傍らの枕を抱き寄せて、一人でおかしくなって足をバタバタさせながら笑い転げる。
「あたしって、ホントバカみたい」
だけど。バカになるのも臆病になるのも大胆になるのも、全て貴方が好きだから。
瞬間、携帯がメールを着信した。
『今から飛行機に乗ります。また、日本で』
携帯に軽く口づける。
「真さん。愛してる」
別の携帯が、またメールを着信した。急いで開く。
『デート、最近できたプラネタリウムにしたら?』
携帯をぎゅっと抱きしめた。
「蘭。大好きよ」
と言うわけで、真園で園蘭かもしれないそんな感じです。あはは。
何しろコナンキャラは皆血液型がわからないので、なんとも難しいお題でした。新蘭は同じ血液型であることはわかってるんですけど。
新蘭引いたらちょっと暗めのネタがあったのですが、幸か不幸か「その他」を引いたので。暗いと言っても萌え萌えには違いないんですけど。
というわけで、園子は書き易くて楽しいです。私は園子の明透けない所が大好きだったりします。
他でも書きましたが、迷宮映画での善哉シーンの園子。大好きです。ああいう事を嫌味なく言ってしまえる友達っていいなー。
ああ、でも銀翼の園子はよかった!!園蘭な感じでよかった!!影響受けてるのがわかりまくりですね(笑)
ところで真さんはどの国にいるんですか?よくわからないんで前回イタリアとかにした気が。空手の修行って……。格闘技よくわかりません。
あ、空手じゃなくてもイイのかな。異種格闘技??
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