出会いは風の中。恋に落ちたあの日から。気付かぬうちに心は。
貴女を求めてた。
***
おかしい。こんなはずではなかった。
一体どこで、何を間違ったのだろう。
彼は足を組みかえると大きく一つ嘆息した。
彼には彼の人生設計があったのである。
ホームズフリークが嵩じて推理オタクに変じ、やがて小説家を志向するに至った。
知識と経験を得るために各地を回り、各地の大学にも何度か入りなおしてあらゆる勉強をした。留学もした。
読書量はいうまでも無く。海外では日本でできない経験もしたし、実は法に触れることだってした。大きな声では言えないが。
勿論それは、小説家の肩書きを得て、ベストセラーを何本も飛ばした今でも続いている。
世間では自分を天才だと褒めそやすが、天賦の才など微々たるものだ。
努力していないと思われるのは心外である。
無論、そんな努力は誰にも気付かれたくないわけだが。
それはともかく。
彼は非常に多忙であった。
そんなわけで、常に取材旅行で世界中各地を飛び回る彼には彼の……所謂理想の女性像があったのである。
まず、美人。自分が面食いな自覚はある。それも日本美人。
髪は緑成す黒髪、着物の似合う和服美人。物腰たおやかで、物静か。
そう、物静か。ここは絶対に外せないのである。
無論、女性が元気であることは問題ないし、アクティブな女性も好きではある。
しかし理想としては。そう、特に結婚相手としては。
家庭的でおしとやかで、取材旅行に飛び回る自分を日本の自宅で留守を守る。古いといわれるかもしれないが、好みなんだから仕方が無い。
趣味は茶道か華道がいい。なんなら茶室のある家でも建ててやろう。
自分に多少なりとも無鉄砲なところがあるから、賢婦人と呼ばれるタイプが絶対にいい。浮気など絶対にしない貞淑な妻。小説以外に思い煩う時間は自分には必要ない。
そして取材旅行から帰ってきた自分の土産話を、相槌を打ちながら静かに聴くのだ。
「そう。それはよかったですね、貴方。お疲れ様でした」
そうして百合の花のように清楚に笑う。
これぞまさに理想の伴侶。理想の家庭。理想の生活。
ずっと。
ずっと、そう思ってきたのだ。
***
それなのに。
おかしい。こんなはずではなかった。
一体どこで、何を間違ったのだろう。
彼はもう一つ大きくため息をつく。
そもそも。自分が恋に落ちる予定など、どこにもなかったのである。
自分の人生はシャーロック・ホームズと、そして推理小説家という家業に終始すると思っていた。
だから、独身でもよかったのだ。
結婚する気が無かったわけではなく、結婚願望が低かった。それだけのことなのだ。
間違っても、自分から結婚を望むなんてことはありえないだろう。
ずっとそう思っていたのだ。
ましてや、恋に落ちて眠れる夜を過ごすことになろうとは。
人生、一寸先は闇。それくらいわかっていたが、ここまで予想を超えた事態はありえない。
人に言えば笑われるかもしれないが、自分としてみればこれは今地球に月が落ちてくるくらい予想を超えた事態なのだ。
絶対にありえない。そう言い切れていたというのに。
イライラと、もう一度足を組み替える。
「いい加減にしたらどうかね。工藤君」
テーブルの向かい側で、丸い温和な顔つきの男が紅茶を片手に苦笑した。
「そんなにイライラしとっても、いいことはないぞ」
「……博士。私は別にイライラなんてしてません。冷静です。」
「そうかね?とてもそんな風には見えんぞ。ともかく落ち着いた方がよくないか?」
「落ち着く?私は落ち着いてますよ。自分のことだってよくわかってる。これ以上ないくらいにね」
「……」
博士と呼ばれた男はもう一度苦笑する。
男はイライラと、もう一度足を組み替えた。
***
本当に。
おかしい。こんなはずではなかった。
一体どこで、何を間違ったのだろう。
事実は小説より奇なり。これまで衆人を驚かす展開を考えるばかりだったが、よもや自分が驚かされる羽目になろうとは思わなかった。
どこで私は読み間違ったのだろう。
全てが順調に進んでいるように見えたのに。
文壇への鮮烈でビュー。ベストヒットの連続。全てが順調。全てが予定通り。
作品のドラマ化の話が来た時も、映画化の話が来た時も、別段驚きはしなかった。
芸能人に会うことだって、別になんてことはない。
特に興味はないので、誰かに会って興奮なんてこともない。そんな相手はおそらくシャーロック・ホームズかコナン・ドイルくらいだろう。
だから、彼女との出会いも別段なんてことなかった。ないはずだった。
無論、TVで見たことくらいはあった。美人は大前提の芸能界においてずば抜けて魅力的。そして何よりその演技力。作家として、寧ろそちらには興味はあった。自分の作品の登場人物を演じさせてみたい。それくらいは考えたこともある。
が、彼女自身には欠片も興味は無かったのである。
あの時までは。
あの時。
そう、あの時自分は何かを間違ったに違いない。自分の完璧な人生設計が崩れたのはあの時だ。
何が間違っていたんだ。何が悪かったんだ。
映像化の話は断ればよかったというのか?それとも彼女が主演と聞いた時に断ればよかったのか?
直接会うなんてことはせずに脚本だけ書いてればよかったのか?
そんなことは無理だ。
あの時点ではこんな結果は予測できなかった。これは、不測の事態なのだ。
自分の小説なら先の先までわかっているけど。自分の人生なんて一寸先もわかりゃしない。
謂わば事故のようなものだ。出会い頭の事故。予測不能。
その結果、人生が狂わされる。よくある話だ。
問題は。
加害者は自分なのか彼女なのか。
被害者は彼女なのか自分なのか。
男はトントンと机を叩いて、時計を確認した。
「まったく」
明らかに苛立ちを含んだ声に、テーブルを離れて機械弄りに夢中になっていた博士は顔を上げた。
「こういう場合、一体どうすべきなのか。私には全くわかりませんよ」
「そうかね?」
屈んでいた腰を伸ばして、博士は二三度腰を叩いた。
「私には君がこれからどうするのか。わかりすぎるくらいよくわかるんじゃが」
ジロリ、と睨まれて博士はまた機会に向かう。
男の座るテーブルの上には。
真紅のバラの花束が用意されていた。
***
その日。米花ホテルで殺人事件があったとかなかったとか。
てなわけで優有ですねー。ラブラブですねー。メロメロですねー。わっはっは。すみません。攻防戦すっとばしちゃいました(笑)
あれ?優作さんはホームズフリークじゃないんでしたっけ。新一だけ?
一目惚れ。と一言で言っても色々あると。思い描いていた理想の人物に出会ってしまうパターンもあり。
自分が恋に落ちるとは全く予想もしてなかったタイプにいきなり惚れてしまうパターンもあり。萌えますね!!萌えますよね!!
なんでこんなことになっちゃったんだろう……と思いながらもう、メロッメロなわけですよ優作さん!!
でもあくまでカッコつけ。優作さんですから。新一の父親ですから。うわー。萌えー。
書いてて誰かを思い出すと思ったら蓮川兄でした。すみれさんラブーーー!!大好きでしたこのカップル!!
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