「じゃ。いいな、服部。頼んだぜ」
「お!!任せとき!!ま、三日もあれば余裕やろ」
「んじゃ、二日で宜しくな」
「アホ!!二日は厳しいわ!!」
「んだよ。三日で余裕なら、二日でどーにかなんだろ」
「そら、ええと」
「天下の西の高校生探偵が何言ってんだ。じゃな」
「おい!!工藤!!」
受話器を握り締めて。服部平次は叫ぶ。
工藤新一……残念ながら今は江戸川コナンだが。その依頼は、正直三日がギリギリの線だ。コナンだって分かっている筈なのに。
「んだよ、うっせぇな。しょーがねぇなあ。三日待ってやるよ」
「工藤。お前それ、人にモノ頼む態度ちゃうやろ」
「お前が言い出したことだろ?あ、そうそう。言わなくてもわかってんだろうけど」
「なんや」
「間違っても、遠山さんに気付かれねぇようにな」
「アホ。わかってるわ」
「バカ。いつもに増して気を付けろって言ってんだよ」
「大丈夫や。あいつ、鈍いはトロイは……」
「油断するなって言ってんだよ!!」
「なんやねん。怒鳴ることないやろ」
「お前。そうやって余裕かましてると、そのうち足元掬われるぜ」
「せやかて和葉やで?」
「女の勘を侮ると、痛い目見るぜ、服部」
「なんや。随分実感籠ってんなあ」
「うっせぇ!!兎に角気をつけろって言ってんだよ!!」
「へぇへぇ。わかったて。ほなな」
時計を見て。取り敢えず水掛け論に終止符。そろそろ、出掛ける準備をしないと和葉との待ち合わせに遅刻する。
……ま、ちょっとくらい遅れても、ええやろけど。
とか思ってしまう辺りが。相変わらずと言えば相変わらず。
尚もしつこく気をつけろ気をつけろと念を押すコナンとの電話を半ば強制的に切って。
平次は着替えると、駅に向かった。
***
待ち合わせ場所への到着は、ほぼ同時。
そして到着と共に。携帯がメールを受信する。
「ナニ?」
「ちょう待って。なんや、メール来た」
受信音に。挨拶より先に開口一番、和葉が訝しげに平次を見上げる。片手で軽く制して。携帯を確認。
……工藤かい。
手早くメールを確認すると。先程の依頼への追加事項らしい。後でいいかとメールを閉じる。
依頼は黒の組織絡み。そこいらの事件とはわけが違う。
コナンに言われるまでもなく。和葉を巻き込むつもりなんて毛頭ない。
……せやけど、このオンナ。ホンマ鈍いからのう……。
敏腕刑事部長を父に持ち。この鈍さはどうかと思う。
「なに?何のメール?」
「あ、や、なんもないわ」
「誰?工藤君?」
「ちゃうちゃう」
「ふうん」
詮索好きなのは、ただ好奇心が人一倍なだけ。
……知りたがりやのに鈍いて、あかんやろ。
まあ。こっちはそれで助かっているのだが。
「わかった。コナン君やろ」
「へ?」
「当たりやろ」
「おお。ま、まあなあ」
「やっぱりや」
珍しいことも、あるものだ。
……ま、俺と一緒におって事件とかようけ会うといて。いつまでも鈍いっちうんも、アレやしなあ。
少しは。成長してくれないとこっちが困る。
「なんで、わかってん」
「平次、コナン君からメール来ると。面倒臭いな〜って顔して、せやけどめっちゃ嬉しそうやねん」
「そ、そか?」
「せや。そんで、工藤君のメールん時もそんな顔するんよ。気付いてへんかったん?」
「アホ。自分の顔なん見えるか」
「そらそうやね。メール貰た時に自分の顔なんチェックせぇへんもんね」
「そういうこっちゃ」
「せやけど、不思議やわぁ」
「なにがやねん」
「平次、工藤君の時とコナン君の時で、ホンマに同じ顔するんやもん」
「そ、そうか?お前の気のせぇとちゃうか?」
「前から思っててんけど。コナン君って、不思議な子やんか」
「ま、まあなあ。不思議言うか、生意気言うか」
「せやかて。平次と話の合う高校生かて早々おらんのに。小学生やねんで?それに10年前の平次よりめっちゃ頭ええし」
「……いらん世話じゃ」
「なあ。コナン君てもしかして……」
……おいおい!!どないしたっちうねん!!
幼馴染の急な話の展開に。平次は思わずうろたえる。
なんだか今日の和葉の頭は、妙に冴えているようだ。
……こんな時に限って……なんかあったんか?
「か、和葉!!」
「ナニ?急に大声出して。吃驚するやん」
「お、お前、たこ焼き食いたないか?あそこ、売ってんで?」
「えー。アタシ、たこ焼きよりパフェがええわ」
「お前、んなもん食うとったらまた体重……」
「そういえばコナン君て……」
「ま、あれやな!!たまにはパフェもええかもな!!パフェ食うか!!」
「……奢り?」
「お、おう。奢ったるわ」
「おおきに」
軽い足取りで歩き出す、幼馴染に。
漸く安堵のため息。
……は〜〜。びびったわ。
***
「だから気をつけろって言ったろ?」
「せやかて。ホンマ、今までなんで気付かんのや!!っちうくらい気付いてへんかってんで?それが、何でまた急に……」
「そうなんだよな……それがわかんねぇ」
「……って工藤。もしかして……」
「そう。そのもしかしてだよ。蘭も最近なんか、思わせ振りなんだよな……」
「あの姉ちゃんもかい。ヤバイやんか、お前。まさかなんかボロ出したりしてへんやろなあ」
「バァカ。俺がんなことするかよ。お前の方からばれたんじゃねぇのか?」
「アホか。こっちは何もお前らに毎日関わってるんとちゃうで?大体、なんで今まであの姉ちゃんにバレへんかったんかが不思議なくらいで……」
「油断するとしたらお前ぇの方だろ」
「なんやと?」
「ま、とにかくあれだ。蘭だけでなく遠山さんも気付き始めたって事は。今後更に細心の注意を払う必要があるってことだ」
「せやな……」
「気をつけようぜ。お互い」
「おう」
電話を切って。平次は大きくため息。
何しろあれから。思い出したようにコナンのネタを振られては奢らされること4回。
高校生には痛い出費である。
……多分、あの姉ちゃんから聞いた、んやと思うけどなあ。
和葉が。自分で気付くとは思えない。のだが。
……案外、カエルの子はカエルってやつなんやろか。
天井を見上げて。軽くなってしまった財布を弄びながら。
もう一度、ため息。
***
「どうだった?」
「うん。吃驚した。めちゃめちゃ効果あったよ。そっちはどうやったん?」
「こっちも。電話があったからちょっと仄めかしたら、効果覿面」
「そっかー。なんなんやろ、コナン君の秘密って」
「ね。なんか新一に関係あるっぽいけど……」
「わからんもんなあ。なんやろ。あの二人、仲よかってんやろ?」
「うーん。私はあんまり知らないんだけど……」
「せやけど今でも仲良さそうやん?」
「そうよねえ」
「せやけど。突き止めたらアカンて言われてんやろ?その人に」
「そう。突き止めちゃうと秘密にならないでしょ?そしたら弱味じゃなくなるから意味ないでしょ?」
「確かに……。あの様子やったら、このネタで当分色んなことしてもらえそうやったもん」
「よね。あんまり何度も使うとそれはそれで効果が薄れそうだし……」
「そうやんな。アタシ、今日ちょっと調子に乗ってもうたから、暫く使わんとこ」
「ま、とりあえずは。弱味握ったってことで。よしってことにしとこうか」
「そうやね」
二人で。クスクスと笑う。
「せやけどその人、誰やったんやろねえ」
「うーん。わかんない。変なお爺さんだったんだけど……本人は怪盗KIDだって言ってたけど、ホントかなあ」
「せやけど怪盗KIDって、若い人なんちゃうん?確か」
「うん。でも変装の名人だから、お爺さんに変装するくらい簡単だと思うんだけど……。でも、本物かなんてわかんないしね……」
「模倣犯多いもんなあ。怪盗KID」
「ささやかな復讐、って言ってたけど。新一、なんかKIDに恨みもたれること、したのかなあ」
「コナン君はしてるやん」
「そうだけど……でもこれって、コナン君じゃなくて新一の弱味だって言ってたし……」
「わからへんなあ……」
「うん……」
窓の外は。東京も大阪も綺麗な夜空。
大きな月が。
クスッと笑った気がした。
蘭ちゃんと和葉は、もうちょっと鋭いといいなと思いつつ、ボッケボケの二人も可愛いなと思いながら書きました<どっちやねん
まあなんにせよ二人は可愛いと!!そういうことで一つ宜しく!!(笑)
そして。深く追求しないのは、彼女達の基本姿勢(?)「話してくれるまで待つ」ってことで。そんな感じです。
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