「さぁて。こんなもんでどうかしら?」
「うわ!!気持ち悪ぃ。俺が居る」
「工藤〜〜〜〜どうや俺。いけてるやろ?」
「寄るな気色悪ぃ」
「冷たいのう」
「んじゃお前は自分と同じ顔の奴に飛びつかれたいか?」
「ええで。俺男前やし」
「こんのナルシストが!!」
「お前に言われとうないわ!!」
「はいはい。黙って〜。ちょっと新ちゃん?まずは私の。この工藤有希子様の変装術を誉めてくれてもいいんじゃない?」
「ああ……まあ、相変わらず凄いよな」
「でっしょーーーー!!」
立ち上がった有希子は酷く満足げに。平次の顎を取ると強引に左右に向けながら。
「我ながら。最高傑作に入るわね。もう、どっから見ても新ちゃんだわ」
「おばはん痛いんやけど」
「なぁに?なんか言った?」
「痛いんで堪忍してくれへん?お姉さん」
「あら、ごっめんなさいね〜〜〜」
上機嫌で。その後頭部を触りながら。
「特に見てよここんとこ!!なかなか出来ないわよねぇ。これは」
「……放っとけよ」
「あとこれ?襟足?」
「うるせぇなぁ」
「これはやっぱ。母親の私ならではって感じよね。普通、真似出来ないわよ」
「せやなあ。常々どないなんってんのか不思議やってんけど……」
「お前ぇに言われたくねぇよ!!んなこと言ったらお前の前髪、あれなんだよ!!」
「ナニって、普通の前髪やん?別に剣道の面付ける時かて手拭するし邪魔にはならへんで?」
「そっちの方が不思議だよ。とにかく、次はあれだな」
「あれ?」
「演技指導よ、演技指導」
「演技?」
「そうよう。せっかく見た目が新ちゃんになったんだから、立ち居振る舞いも新ちゃんらしく出来ないと」
「最初の方はずっと包帯して顔隠してんだ。その間も工藤新一らしい立ち居振る舞いしといて貰わねぇと、包帯取った時に説得力ねぇじゃねぇかよ」
「あーー、そうやなあ」
「お前はやることが大雑把で繊細さに欠けるからなあ」
「なんやと、コラ。それ言うたら誰が繊細やねん」
「ナニ言ってんだよ。俺は繊細だぜ?見てわかんねぇのかよ」
「繊細な奴がちっこくなったん利用して、好きなオンナの家潜り込むかいドアホ。そういうんは図太い言うんや」
「確かにそうよねえ。新ちゃんって、変なところで度胸があると言うか、要領がいいって言うか……」
「うるせぇな」
「それで居て未だに蘭ちゃんに告白すら出来ないところは、要領が悪いって言うか、間が抜けてるって言うか……」
「余計なお世話だ!!」
「工藤。頑張れや」
「お前にだけは励まされたくねぇなあ!!」
「冷たいのう」
「とにかくだ!!ちゃんと俺らしい立ち居振る舞いしてくんねぇとヤベェんだよ!!幸いハロウィンパーティーだ。んなお化けの仮装だらけのところに蘭が来ることはないから心配はねぇけど。おっちゃんはいいとして、園子の奴だからな。あいつは変なところで勘がイイって言うか、変なところ見てるからなぁ。油断ならねぇ」
苛々と前髪を掻いて、高い椅子に飛び乗る。と言っても、コナンにとっては大概の椅子は高いのだが。
足を組むと、膝の前で両手を組んで、服部平次を睨み付けた。
「勘付かれるわけには行かねぇんだよ。わかってんだろ?」
「工藤……お前それ、人にモノ頼む態度ちゃうで?」
「そうよう、新ちゃん。例の組織が関わってる船に、一人で乗ってくれるのよ?服部君は。そんなの他に引き受けてくれる人居ないんだから。ちゃんと感謝しなさいよ?」
「……わかってるよ」
「ま、今回は私も一緒に行ってばっちりバックアップしてあげるから。心配ないと思うけど」
「寧ろそっちの方が心配だよな……」
「なぁに?なんか言った?」
「なんでもねぇよ。とにかく服部。お前ちょっとそこの端から端まで歩いてみろよ」
「歩くだけでええんか?」
「無論、俺らしく、な」
「それやったら任しといて」
よいしょ、と立ち上がった平次は。もう一度鏡を覗き込むと酷く満足げに角度を変えて自分を確認すると。
いつもの大股で部屋の隅に向かう。
「ばーろ。俺はそんな歩き方はしねぇよ」
「アホ。今のは素や。こっから工藤っぽくやるんや」
「ああ、そうかよ」
「さぁて」
目を瞑って深呼吸。大袈裟だな、と苦笑したコナンだが。ふと、平次の雰囲気が変わった気がして目を見張った。
歩き始めた平次は。
「凄ーーい。新ちゃんがホントに居るみたい」
「こいつ……」
雰囲気から小さな癖まで。まるっきり、工藤新一。
「なんか。気色悪ぃな」
「でも凄いわよ。ホントに新ちゃんそっくり」
そうなのだ。
まるっきり、工藤新一がそこに居て。
……じゃあ俺は誰なんだ?
そんな気分にさせられる。
「どや。工藤。驚いたやろ」
「ああ……正直驚いたぜ。何だよお前。いつの間に……」
「前に自分で工藤のカッコしたことあったやろ。あん時、結構練習したんやで?」
「あれかよ。んな練習する暇あったら、寧ろ言葉遣いとかメイクとか、もうちょい力入れるべきところがあったんじゃねぇのか?」
「あーー。せやけどなあ。なんや白なったらメッチャ工藤っぽい気ぃしてきてなあ」
「俺のアイデンティティは白いところだけか。眉とか目とか思いっ切り違うじゃねぇかよ」
「細かいこと気にしぃなや」
「細かくねぇよ!!重要だろ!!第一、すぐばれたし」
「あれは、和葉がおったから」
「ばぁか。遠山さんが居なくてもすぐばれたに決まってんだろ。ボケ」
「おま……関西人に向かってバカとかボケとか連呼するんはあかんで」
「うっせぇ。俺の顔で関西弁しゃべるな!!声だけお前で気色悪ぃ!!」
「そんなん言うたかて、俺普通に喋ってるだけやんけ」
「まあ、お前に標準語はもう期待してないから安心しろ。お前は、透明人間の時も包帯取ってからも一言も喋るな。いいな」
「わかってるて。せやけど、今はしゃあないやん」
「なら今は極力黙ってろ」
「そら、殺生やわ」
「とにかく凄いわ、服部君。ちょっとここで一回ターンしてよ。新ちゃん風で」
「お安い御用や」
クルリと軽やかにターンすると。ご丁寧に恭しく一礼する。
服部平次なら、まずやらない。
「俺だと思っても自分が二人居るみたいで気色悪ぃけど、お前だと思うとそれはそれで気色悪いな」
「うっさいわ。こっちは一言も喋られへんのやから。特に透明人間中の演技は大変やねんで?ちょっとくらい大袈裟のがええんや」
「そうよう。新ちゃん、ホントにちゃんと感謝してる?」
「あー、してるしてる」
「大体、周りの反応はシミュレートしておかないとね」
「そうだな……絶対ミイラ男とだと思われるからな。ま、それでもいいんだけど」
「だめよう。同じ怪物同士は組ませて貰えないんだもん。ある程度好きに動こうと思ったら、他と被らないモンスターにしないと。だから、透明人間。透明人間ですよ、って証明するアレは、さっきも説明したでしょ?」
「あー、そうだったな」
「せやからな。誰かにミイラ男言われたら……」
「だからお前は喋るな」
コナンの苦言を無視して。平次は人差し指を一本立てると。
軽く横に振って。
恭しく有希子に手を差し伸べる。
「すっごい服部君。ホントに新ちゃんみたい!!それでさっきのアレで、吃驚させるのね!!」
「せやせや。そういうこと!!」
「まあ……流石に今回はお前の凄さは認めざるを得ないな」
「ホンマ冷たいのう、工藤は。ま、俺かて伊達に工藤フリークはしてへんわ」
「……俺フリークかよ」
「ストーカーよりいいじゃない」
「似たようなもんじゃねぇのか?」
「失礼な事言いなや。別に後つけて家探し出したりとかしてへんで?ちょう工藤の出たTVとか何度も巻き戻して見て仕草覚えただけやん」
「……変態かお前」
「アホ!!せやからこれはこの前の文化祭の……」
「ま、いいや。とにかく、俺の演技は完璧っぽいな。助かるぜ。後は俺の喋るのにあわせての口パクだな」
「これは結構高度な技術よねえ。相手が新ちゃんだからどうとか言う以前の問題よ。まあ、シナリオ通りに行けばマストの上の方で喋ることになるから、多少ずれてても問題ないはずだけど」
「だな。ま、少し練習しとくか」
「お。了解」
***
完璧だ。と思った。
本当に。こればかりは認めざるを得ない。服部平次の、新一の演技は完璧だった。
これなら絶対に。
誰にもバレないだろうと。思ったのだ。
事実。
当日は。上手くいったのだ。
***
「これこれ!!ほら、ここんところ!!」
例の事件は。ニュースでは大きく取り上げられた。被害者が有名な映画プロデューサー。寧ろワイドショー的な要素が強い。
後で映画の宣伝に使えるだろうとスタッフがパーティーの様子を映像に収めて居た為。
朝からTV画面を賑せている。
それを。
嬉しそうに、ホンの数秒映る自分の姿を指差すのは。園子。TVに映るなんて珍しいことでもあるまいしと突っ込んだところ。
「居そうにないところに一見わからない格好で映ってるのが、いいのよ」
と。仁王立ちで言われてしまった。まあ、気持ちはわからなくない。
が。一見どころかあんな変装ではどっからどう見ても、園子以外の何者でもない。
「あ、それでね。こっちのマントの端がちょこっと映ってるのがおじ様で〜」
「あんで俺が、んなちっこい扱いなんだぁ?」
「こっちの後姿のメドゥーサが、新一君のところのおば様」
「ああ、なんか解るなぁ。変装してても、雰囲気あるよね、有希子おば様って」
「そんでこっちのミイラ男……じゃなくて」
「新一……じゃないわよね。あ!!これ、もしかして服部君!?」
「へ?」
思わず。園子の代わりにコナンが頓狂な声を上げてしまった。
報道では。東西高校生探偵の登場……と言っても東は実際に登場したわけではないが……は伏せられている。小五郎も、色々と癪に障るのだろう。口にしない。
昨日の今日で。蘭が事件の詳細を知るわけない。と思っていたのに。
「な、なんで?」
「え?違うの?」
「違わないけど……でもこの服部君、ちょっと新一君っぽくない?」
「確かにぱっと観ると新一っぽいけど、でも違うわよね。だって新一、もっとカッコつけだし」
「そ、そんなことないと思うよ……?」
一応フォローに回ってみたものの。思わず声が上擦る。
「だってこの人、全然カメラに気づいてないもん」
「そりゃそうよ。カメラが入ってるなんてあたし達だってしらなかったし。知ってたらもーーっと目立つカッコしたのになあ!!」
「でも、新一だったら絶対気付くと思うのよね。カメラ」
「そうかしら」
「そうよ!!目立つことにかけては、すっごい敏感なんだから!!カメラが入ってるとなると、当然カメラ目線は当たり前だし、もっとカメラを意識して動くと思うのよね」
「あー、それはなんとなく解るわ。小学校の学芸会の時に伝説作ったもんね」
「わーーー!!わーーーーー!!わーーーーーー!!」
学芸会における工藤新一の伝説。
演劇で主役を張った新一は。クラスメイトの保護者の撮った全てのビデオカメラに。最低一回はカメラ目線で映っていたのだ。
漏れなく。
「確かに。そう言われれば。工藤君なら絶対どんな隠しカメラにも気付くわよね」
「でしょ?」
「さっすが蘭。旦那の事はお見通しってわけ?」
「そんなんじゃないけど……」
「は、はは……」
気付いてくれて。
嬉しいような。切ないような。哀しいような。
つい。
笑いが引きつった。
漸くここまで来た!!って感じですが!!10万HIT企画に突入しましたエイヤ!!
というわけで、今回のリクは『変装と言えば有希子さん!!』を採用させて頂きましたvv
『有希子さんが蘭ちゃんを』にも心惹かれたのですが、船上ハロウィン好きなモノで……平次のアホっぷりが(爆)
リクエストありがとうございましたvvお楽しみ頂けてるとよいのですが、それ以前にもうこのサイト見限られてる可能性もあって泣けます。
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