本当に。
息吐く間もないとはこのことだ。
江戸川コナンから工藤新一に戻ってまだ一週間。
黒の組織との死闘で疲れ切った体に十分休息を与えたいし、何よりも。
実はずっと一緒に居たのだが。表向きは久し振りに再会した。そして今や天下白日の下晴れて恋人同士となった蘭との時間をゆっくり取りたい。
それなのに。
……事件は俺を待ってちゃくれねぇ……人気者は辛いってことだな。
今や犯罪大国に成り下がった日本では。高校生探偵に安息の日はない。
現に。
新一に戻ってからも連日事件に引っ張り回され。
嬉しい悲鳴。
長い不在に。正直存在を忘れ去られ兼ねないと危惧していただけに。
目暮警部の手放しの歓迎っぷりは。ホッとするような。おいおい、日本の警察は大丈夫なのか?と不安になるような。
そして。
……ついに来やがったか。
そう。
怪盗KIDからの挑戦状。
***
「おっす。蘭」
「あ、新一……おはよう……」
朝から。ぐったりした表情の恋人に。満面の笑みもいきなり引っ込む。
「なんだよ。どうした?風邪か?腹の具合でも悪いのか?生理……は俺の計算だとまだ一週間……」
「ちょっ!!なんで新一がそんなこと知ってるのよ!!」
「へ?そりゃ当たり前だろ?探偵として、蘭の彼氏として、間違いのないようそれくらいは……」
「なんの間違いがあるっていうのよ!!バカ!!」
パンチを避けると。踵落しが続く。
……おいおい。パンツ丸見えだって。
心の中で突っ込みつつ。正直コナンの時と違って高校生の体では、避けるのに精一杯で。
揶揄する余裕がない。
「んじゃどうしたんだよ。んなしけた顔して」
「ちょっと……朝から、大変だったの」
「だから。何が」
「取材の人が……事務所に押しかけちゃって……」
「取材?」
はあ、と大きくため息を付く蘭は。それでもやっぱり美人だ。疲労が憂いとなってその魅力を増している。
「蘭、お前、もしかして……」
「え?」
「お前まさか!!芸能界デビューとかするんじゃねぇだろうな!!スカウトされたりしたんじゃ……!!」
「はあ!?」
「そんで、取材が?そりゃそうだよな。お前、父親も母親も恋人もその両親も有名人だし……」
「ちょっと!!なんでそんな話になってんのよ!!だいたい、私達が付き合ってることなんて、TVの人が知ってるわけ……」
「止めとけ!!芸能界なんて碌なとこじゃねぇぞ!!俺が言うんだ!!間違いない!!」
「だから、違うってば!!」
「清純派で売ってるうちはいいけど、ちょっと人気が翳って見ろ!!あっという間にセクハラの対象だ!!役が欲しければ……なんてタヌキ親父は未だに居るって話しだし……」
「だから!!別に私は……」
「大体!!有名になってみろ!!ストーカーには付回されるし、パパラッチは追ってくるし、おちおちデートも出来ないんだぜ!!」
「ちょっと新一!?」
「路上で抱き合ってキスとかも出来ないんだぜ!!」
「そ、そんなこと!!芸能界と関係なく普通しないわよ!!」
「本人が脱がなくたって、世の中アイコラとか蔓延してんだ。あっという間に何人の男達のオカズになるか……ああ!!考えたくもねぇ!!」
「そんなこと考えないでよ!!」
「悪いこと言わないから!!止めとけ!!蘭!!」
「だから!!誰も芸能界デビューなんてしないわよ!!人の話、ちゃんと聞きなさいってば!!」
「……しないの?」
「しないわよ」
「んじゃ、なんで取材が?まさかまた俺か?」
長らく姿を消していた高校生探偵の復活に。当然世間の好奇の目は失踪期間中に向けられたのだが。
そこは国家に拘る犯罪に関与したとか何とか、警察から父親のコネまであらゆる権力を使って取材拒否を貫いている。
蘭や小五郎に一言でもそのことを聞けば。
通報され罪に問われても仕方がない状態なのだ。
……一週間経って。そろそろいいとでも思ったのか?
しかし蘭はまた。ため息。
「……違うわよ」
「んじゃなんだよ」
「……コナン君」
「コナン……ってことは俺じゃねぇか」
「そんなの。皆知らないんだもん。今、TV局の人たちが血眼になってコナン君探してるんだから……大変だったのよ?」
「え……でもなんでコナン?」
確かに。警視庁では有名だった。けど。
コナンが事件に拘っていることは、小学生という事もあって新一より隠されてきたことだし。
実際に事件を解いたのは眠りの小五郎になっていることも多く。
江戸川コナンが姿を消したことで問題が発生するのは。
元太たち少年探偵団など。極々身近だけだと思っていたのに。
……なんで。TV局?
「……なんで?」
「……KID」
「KID?て、怪盗KIDだろ?」
「そうよ」
「怪盗KIDとコナンに、何の関係があるんだよ」
「ありありじゃない!!」
少し声を荒げて。けれど新一がわけがわからないというように目を丸くしているのに気付いて。
蘭はもう一度。深く深くため息。
「どっかの誰かさんは。怪盗KIDが相手だと、大人気なかったじゃない」
ため息と共に吐き出された台詞に。
……やっべー!!
***
そうなのだ。
どんな事件も、殆ど。毛利小五郎に解かせて来た。
自分の名前は。工藤新一・江戸川コナン。どちらにせよ、出した事件は1割にも満たない。……分母がでか過ぎるという突っ込みは、この際おいて置くとして。
無論。高校生探偵としての名声に未練はあった。が。
そもそも。幼児化したのだって自分の責任だし。黒の組織に狙われている以上、大々的に無事であることをアピールするわけにもいかなかったし。
まあ。
事件が解ければ。後は誰の手柄になってもいいか、くらいの割り切りはあったのだ。
が。
こと、怪盗KID絡みになるとそうは行かない。
これは。プライドの問題で。
怪盗KIDと対等に渡り合えるのは、毛利小五郎でも誰でもなく自分でありたかったし。
相手に工藤新一=江戸川コナンの事実を知られてしまった以上、江戸川コナンの手柄は工藤新一であり。
世間より寧ろ怪盗KIDに。
江戸川コナンの手柄を誇示してきた。
……のだ。
***
「……ヤバイな」
「やばいわよ。ほんっと、考えなしなんだから……」
「忘れてた」
「忘れないでよね!!こっちは朝から大変だったんだから!!」
「……でもよ。工藤新一だって、コナンになる前に一回怪盗KIDと対戦してるんだぜ?しかもちゃんと、お宝は守ったし」
「そんな昔のこと、誰も覚えてないわよ。ずっとコナン君が怪盗KIDから宝物守って来たんだもん。新聞の一面にも載ったし」
「昔っていうなよ……」
「昔じゃない。ワイドショーのネタなんて、入れ替わり早いんだから!!それに、怪盗KIDvs高校生探偵より、怪盗KIDvs小学生の方が、インパクトあるんだから」
「そりゃ、確かに」
「コナン君はもう日本に居ません。怪盗KIDからは、工藤新一がターゲットを守ります、って言ったら」
「……言ったら」
「工藤新一?ああ、そんな人もいたね。だって」
「なんだと!!??」
思わず。握り拳。
「そんな人もいたねってなんだよ!!俺ちゃんと、この一週間事件解いて来たぞ!!ちゃんと、新聞にも名前載ったし!!ニュースにだって」
「仕方ないでしょ?KID専属の記者の人とか、もう、年がら年中怪盗KID追っかけてんだもの」
「え、そんな奴らいるんだ」
「いるの。困ったことに。そういう人達は、怪盗KIDが出たらコナン君を引っ張り出そうってことしか思いつかないのよ」
確かに。
……やりすぎた、よな。
かといって。江戸川コナンは工藤新一でしたとも言えないし。
あれは。工藤新一が全て助言していただけで、江戸川コナンの手柄ではありませんでしたというのも。
微妙にプライドが許さないというか。
そもそも江戸川コナンが居ない今現在そんな発表をしたところで、世間は信じないかもしれない。
……まいったなぁ……。
「悪ぃな、蘭」
「反省してくれれば、それで宜しい」
「明日も、そっちに人押しかけたりしねぇかな。なんだったら、うちに非難してくれば?」
「大丈夫。今日は園子の家に泊めてもらうことにしたから。目暮警部に頼んで取材規制かけて貰う事にしたの。コナン君は、小学生なんだからって」
「ま、たしかに。筋は通ってるよな」
「そういうわけだから。頑張りなさいよ」
「へ?」
とりあえず。今後蘭が被害にあわずに済みそうだと安堵していると。長い、さらさらの髪を揺らして蘭が振り返る。
「へ、じゃないでしょ?怪盗KIDのライバルは、江戸川コナンじゃなくて、工藤新一だって。世間に示してあげないと」
「同一人物なんだけどな」
「そんなの。知らない人にはわかんないもん」
「そりゃそうだ」
「まずは今回のお宝を守って」
「あったりめぇだろ?」
「千里の道も一歩からだからね!!」
「へぇへぇ。わかってるって」
なんだか。少し気が遠くなる。
江戸川コナンだった時間。長くもないけど、決して短くもない。
その間の遅れを取り戻すには。
同等の、もしかしたらそれ以上の時間が必要なのかもしれない。
……一年……いや、もしかしたら、二年……?
自業自得。
そう言われてしまえば終わりだけれども。
けれども。
「ま、新一ならあっという間だよね!!」
にっこりと笑うその笑顔に。
とりあえず一発で。怪盗KIDのライバルの座を取り戻そうと。心に誓ってみたりした。
新蘭です新蘭です新蘭です<呪文。リクエストは「コ蘭+新一」だったのですが……スミマセン(土下座)
何よりも。実は初めて書いた未来新蘭です。黒の組織とどうやってかわかりませんが決着つけてどうやってかわかりませんが新一に戻ったコナン。
さらっと書いてますが。一応、蘭ちゃんはコナン=新一を事件解決後に知ったって感じで。さらっと書いてますが。さらっと書いてますが。
知った時の蘭ちゃんの衝撃とかそんなもん全部無視してさらっと書いてますが。さらっと恋人同士にしてたりしますが。……スミマセン。
兎に角まあ、元に戻ったら色々頑張らなければならないと思います工藤新一。まあ蘭ちゃんが応援してくれれば大丈夫でしょうきっと。
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