読書の秋。スポーツの秋。
食欲の秋。
女の子が三人揃ったら、美味しいタルトを食べに行こう。
秋の味覚はまた格別。
無花果。柘榴。栗に洋梨。柿に葡萄に、林檎も出初め。南瓜のタルトに薩摩芋。
紫芋のモンブラン。
美味しいケーキに美味しいお茶。
男の子にはわからない。
女の子だけの特別な時間。
三人寄ればどこだって楽しい。いつだって楽しい。
そこはもう。
甘い香りとお喋りに満ちた。
極上の時間。
***
「うわ〜〜〜!!もうどないしよ!!めっちゃ迷う!!あかん!!決められへん!!」
「ね、いくつ食べる?」
「ええ!!一個とちゃうの!?」
「だってねえ。お昼ごはん代りだと思えば二個、三個くらいは……」
「そうそう。遠慮しないで、和葉ちゃん」
「せやけど……」
「何しろ今日は」
ニッコリと。蘭は極上の笑みを作る。
その白くて細い指にきらりと光るのは。
「今日は新一の奢りなんだから」
工藤新一の。カード。
ちなみに。流石に工藤優作名義のゴールドカードではない。
が。
海外に居る工藤夫妻からの仕送りが十分に入っているので。女の子が三人、お茶の時間を満喫するのにはなんの不自由もありはしない。
勿論。このカードで買い物をしてしまうとか、豪華なディナーを洒落込む事もことも可能と言えば可能なのだが。
とりあえず美味しいタルトと美味しいお茶だけで済ませてあげてしまうのが。
園子に言わせれば「ホント、蘭も和葉ちゃんも、甘いんだから!!」という事になってしまうのだが。
「せやけど、ホンマにええのんかな。アタシまで奢って貰ってもうて」
「ちょっと待ってよ。和葉ちゃんにそんなこと言われたら、一緒に奢ってもらうつもりのあたしの立場がないわ」
「そうそう。気にしちゃだめだって」
無論。工藤新一が今日一日恋人の毛利蘭にカードを預ける羽目になったのには。理由がある。
先日のデートの約束を。こともあろうに、と言うか。相変わらず、と言うか。
事件の捜査を優先させて、見事すっぽかしたのである。
ちなみに、今日の和葉の大阪からの足代は。服部平次もち。
つまり。平次も一緒になって、やらかしたのだ。
新一と蘭。平次と和葉。そして京極真と園子。六人で新しく出来たメルヘンランドへ行こうと。園子のコネを使って予約まで取っていたのに.。
「今回は。完璧に新一が悪いんだから」
「それを言うたら、平次もやけど」
「でも服部君は和葉ちゃんの交通費出してくれてるから、まあそれでチャラでしょ?」
「まあ、そうやけど」
そういう意味では、服部平次の方が負担金額は多い。が、それはある意味自業自得だし。
新一に言わせれば「俺は園子にまで奢らなきゃなんねぇんだから、精神的には俺の方が負担がでかい」らしいのだが。
園子だけは結局真と二人でメルヘンランドに行ったのだし。大体、お嬢様だろうお前ぇはよ!!というのが、新一の言い分。
「だって仕方ないじゃない?真さんはまたすぐ海外に行っちゃうから、あのチャンスを逃したら次がなかったんだもの」
「そもそもお前ぇがカップル御用達エスコートコースなんか申し込むからだろ!!」
「何言ってんのよ!!メルヘンランドにカップルで行くのにエスコートコースで行かないでどーするのよ!!最後には夜景の見えるレストランでのディナーまでついてるのよ!?このコース限定なのよ!?新一君だってあーーーーんなに楽しみにしてたくせに、今更文句なんていわないで欲しいわね!!」
このエスコートコース。
は、メルヘンランドに用意された様々なプランの中の所謂カップル御用達コースの最高峰。
メルヘンランドには様々なコースが用意されていて、何をするのも予約制。食事をするのもアトラクションに乗るのも全て予約制。
待たずに遊園地が楽しめる反面、確かにちょっと高額ではある。
が。例えばファミリーコースだと食事もアトラクションも待つことはないしベビーカーやその他のサービスも充実。親の負担はかなり軽減されるし、子供向けのサービス(園内キャラクターとの記念撮影や、記念品の贈呈など)もバッチリだ。
他にもシルバーコースや車椅子の人用のコース。レディースコースやペアコースも充実している。
完全予約制なので、無駄に混まないところも魅力の一つだろう。
そしてそのカップル御用達コースの最上位ランクが、エスコートコース。
入場時には女性へのプレゼントが用意され。昼食は湖の畔のレストラン。アトラクションは勿論予約。そして夜は夜景の見えるレストランでの食事。そして最後は観覧車。
その他細々上げれば限がないが。
兎に角女性を最優先にしたコースで。
一日限定10組。
勿論人気のコースでその高額な値段にも拘らず年内の予約は一杯と言われているものを。
「エスコートコースをすっぽかしたカップルなんて。あんた達が初めてでしょうね。予約したこっちの身にもなってよ!!」
メルヘンランドのオーナーと知り合いの園子の意見も。もっともである。
前の晩に事件発生。
朝までには戻るからという新一と平次の言葉を信じて。いつものことだからと諦めて二人を送り出したものの。
残念ながら。朝の待ち合わせ時間には間に合わず。とりあえず真と園子だけを送り出した。
完全予約制で当日キャンセルはキャンセル料が100%だったし。例えば昼食からとか。コースの途中から参加なら問題ないので。
二人で根気良く待ったものの。
結局。日付が変わるまで。二人の高校生探偵は戻らなかったのである。
このエスコートコースが。男性のみがIDカードを持つ仕組みだったのも。敗因の一つ。蘭と和葉だけ、というわけにはいかなかったのだ。
二人の高校生探偵が。
事件を目の前にして。彼女より事件を優先してしまうのは。仕方のないことだとわかっているし。
事件を放り投げて来て欲しかったわけでもない。
が。
それと、埋め合わせは。別問題である。
今回は女の子だけのデート。男連中はお留守番。
「それだけで。新一君にも服部君にも。いい薬だと思うのよねえ」とは園子談。
予約が取れれば、メルヘンランドのレディースコースでもよかったのだが。残念ながらこればかりは園子にもどうにも出来ず。
無難なところに落ち着いた。
と言っても過言ではないだろう。
タルトと言っても。素材が最高級なだけあって。
「1ピースで1000円越えてんのとか、あんのやけど」
「折角だからそれいっちゃおうよ。普段なら絶対、手が出ないんだし」
「そうそう。遠慮なく」
「お茶も、ピンきりやね」
「好きなの頼んでね。遠慮なんてしたら、それこそ新一に悪いじゃない?」
遠慮なんてしないで。
気の済むまで楽しんで。
そして先日のことはさらっと水に流して。
そうでないと。
新一も平次も寧ろ困る。
「もうここは!!値段は見ちゃ駄目よ!!本能の赴くままに好きなタルトを!!」
「そうそう!!私はこの限定無花果のタルトと……」
「え!!蘭ちゃん二個食べるん?ほんならアタシも……」
「あたしは三個行くわよ!!」
「じゃ、私も三個!!」
「ちょう待って!!ホンマ迷う!!」
「ねえ、二人とも何頼む?一口分けっこするよね?」
「あったりまえじゃない!!」
「そっか。そうやんな。それやったらアタシ……」
***
幼馴染が。事件解決を最優先にすることくらい、知っているし解ってる。
そんな彼らが大好きだけど。
でも。
一日、無事だろうかと、怪我などしていないだろうかと、心配して過ごしたのだから。
だから今日一日くらい。
***
「来たか?」
「ああ。来たで」
幾分沈んだ声で。工藤新一と服部平次はお互いの自室で受話器に向かってため息を付く。
「つーか、俺のアドレス教えたん。工藤やろ」
「当たり前だろ?俺が一々お前に転送すんのは面倒臭ぇし。かといって俺だけこんな目に会うのは悔しいしな」
園子からは。頼んでもいないのに定期的に実況中継の携帯メールが飛んでくる。
彼女なりに。彼らに言いたい山のような苦言を。代弁させているのだろう。
嫌でも。
……や。別に。嫌なわけじゃねぇけど。
今日一日。彼女のことを考えないわけにはいかない。
「……こんな笑顔。俺、見たことねぇぞ……」
「俺もや」
お互いにからかう気も失せて。
また大きく。ため息。
途端に携帯がまたメールを受信して。
開く前から。またため息。
なんとなく思い付きで書いたんですけど。こんな遊園地欲しいな。絶対並ばないで済むの。
でも広いと維持費とか人件費とか色々あるからその分高くなっちゃんだろうな法外になりそうだよな。だからないんだろうな。
というわけで。このお題に対するリクは結構ばらけました。新園蘭、新快平、蘭和青。その中で蘭和園の採用です。
多分、迷宮をグルグル見てたのが原因ではないかと思います……快青が介入する余地がなく……スビバセン。
そして東西高校生探偵は相変わらずです(笑)
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