「は〜。全く。まいったぜ」
溜息混じりに工藤家の居間に入って来たのは黒羽快斗。
振り返った工藤新一は小さく苦笑しながら。眉を潜めてわざとらしい溜息を返す。
「お前な。人んちに入る時にはきちんと呼び鈴鳴らして玄関から来いよ」
「だって面倒臭いじゃん」
「ええなあ、黒羽。工藤んちの合鍵持ってんのや。不潔や!!お前らそんな仲やってんな!!」
「服部……それ、どっからどう突っ込んでいいんだかわかんねぇんだけど」
「相変わらず冷たいのう、工藤は」
「や、今のは俺も微妙だと思うぞ」
「なんや黒羽。友達甲斐ないやっちゃのう」
「で。何がまいったんだ?」
新一は。優雅な手つきで紅茶を入れると。無言で服部平次に差し出す。
それを。新一と平次が座るソファから少し離れた書斎机に陣取った快斗に届けるのは平次の役目。新一は、決して立ち上がらない。
「それがさ〜〜。青子がさ」
「んだよ。惚気かよ」
「違う違う。ったく、ホントまいるよなあ」
「せやから何が」
「なんであいつの胸って、あんなちっさいかな〜。今時の女子高生であの発育はありえなくね?」
「はあ?」
突然の話題に。新一と平次が振り返る。が。
新一の入れた紅茶を一口飲んで。快斗は「ん〜やっぱ工藤の紅茶は美味しいねえ〜」などと暢気に呟く。
そんなお褒めの言葉も当たり前のように聞き流して。盛大に眉間に皺を寄せて。
「なんだよ、突然。大体、別に問題じゃねぇだろ?」
「問題だよ問題。まあ、工藤はいいじゃない。蘭ちゃんおっぱい大きいし」
「う、うるせぇ!!イヤらしい言い方するな!!」
「まあ確かに。あの姉ちゃんは胸デカイな。和葉にも見習わせたいくらいや」
「だろー?やっぱなあ。男のロマンだよなあ、こう……」
「なんだよその手!!何想像してんだよ!!」
「ええなあ、工藤」
「バカ野郎!!想像するなって!!俺の蘭に何すんだお前ら!!」
「や、ちょっと青子の胸を妄想の中で大きくしただけだけど?」
「だ、大体なあ。女性の価値は胸で決まるわけじゃねぇだろ?胸がでかければいいってもんじゃないし」
「そらまあそうや。形も重要やと思う。せやけど、あの姉ちゃんは形もばっちり」
「そうそう。いいよなあ」
「だから胸から離れろよ!!」
「まあ確かに。胸がでかければ他がなんでもいいわけじゃないけどさ。その点蘭ちゃんは、美人だしスタイルもいいし性格もいいし」
「そうそう。それに料理かて上手い」
「あ、それはポイント高いよね〜。ちょっと青子に爪の垢煎じて飲ませてやりたいよーって、和葉ちゃんだって料理上手いじゃん」
「まあ、それなりには食えるけどなぁ。せやかてあの姉ちゃんのレパートリーには及ばんで」
「まさに理想のお嫁さん。は〜、工藤には勿体無いよなあ」
「ば、ばーろー。あ、あいつだって結構アレだぜ?ヤキモチ焼きだし」
「それ言うたら、和葉の右に出るもんおらんやろ。勘弁して欲しいわ」
「それは愛されてる証拠ってことじゃん?」
「あ、アホ!!それ言うたら工藤かて」
「はああ〜いいよねえぇ〜あーんな美人がさー」
「お前らなあ。そういうことは一回でも蘭の蹴り食らってから言えよ」
深く溜め息を吐いて。
「まあ、俺もまともに食らったことはないけどな。あれは結構、たまんないぜ」
「せやなあ。確かに」
「だなあ。あれはなあ。確かに」
途端に引き下がる二人に。ちょっと拍子抜ける。
「それ言うたら和葉なん、所詮合気道やしなあ。あの蹴りはあかんやろ。人死ぬで」
「青子のモップ攻撃なんてまだ可愛いもんだぜ。やっぱそれくらい可愛げがある方がいいかもな」
「いくら美人で胸もデカイ言うてもやなあ。それやったら和葉のが……」
「そうそう。ぺったんこでもまだ青子の方が……全然上?」
「おい。お前ら。随分言ってくれんじゃねぇか」
「へ?せやかて工藤が言うたんやん。あの姉ちゃんの……」
「ばーろー。それ言ったら遠山さんのヤキモチ。さすがにちょっと異常じゃねぇのか?」
「や、別にあれくらいは……」
「なんだよ工藤。ホントのこと言われたからって服部に当たるなんて大人気ないぜ」
「ばーろー。何がホントの事だよ。大体なあ、中森さんの料理の下手さは、尋常じゃないんじゃねーのか?」
「んだと、コラァ!!青子はなあ、そりゃ確かに料理は下手だけど」
「お前はいいけど。一緒に食わされる俺と蘭の身にもなれよな!!」
「バカ野郎!!青子が心込めて作った料理にケチつけんな!!」
「心籠ってればいいってもんじゃねぇだろ。性格もさあ。あそこまでいくと幼稚っつーんだよ!!」
「ちょ、ちょう工藤。そら言い過ぎとちゃうか?」
「遠山さんのヤキモチだって、殆どヒステリーじゃねえかよ!!」
「んだと工藤!!」
三人同時にスックと立ち上がり。
「幼稚ってなんだよ!!青子の純真さがわかんないなんて、お前人間の心ねーんじゃねーのか?大体、蘭ちゃんの鈍さだっておかしいぜ。ホントにコナンが工藤だって気付いてなかったんだったら、それ鈍い通り越してバカなんじゃねーの!?」
「ちょ、黒羽、そらちょっと言い過ぎと……」
「んだよ服部。自分だけ外野みたいな顔して。大体なあ、遠山さんは中途半端にも程があんだろ」
「なんやそれ!!何が中途半端やねん!!」
「だよなあ。ま、あれか?言い換えると取り柄がない」
「なんやと工藤!!そんなん言うたらあのねえちゃんかて」
「ばーろー!!蘭が何だって言うんだよ!!蘭は最高だろ!!当たり前じゃねぇか!!」
「ばーか。青子が世界一に決まってんじゃん」
「アホか!!和葉や!!」
「蘭だ!!」
「青子だ!!」
「和葉や!!」
「んだとお前ら!!やる気か!?」
「ほっほー!!天下の大怪盗様に喧嘩売ろうっての、お前ら!!」
「は!!上等やないか!!」
「表出ろよ!!お前ら!!」
「望むところだ!!逃げるんじゃねぇぞ!!」
「誰が逃げるっちうねん!!返り討ちにしたるわ!!」
***
「やーっぱ蘭ちゃんの淹れる紅茶は最高だよね!!いい香り!!」
「ホンマ。それに青子ちゃんのクッキー、今回は成功とちゃう?」
「ホントに!?嬉しーなー!!和葉ちゃんのシフォンケーキも、すっごい美味しそう!!」
「おおきに!!なあ、蘭ちゃん座って座って!!ゆっくりお茶にしよ!!」
「うん」
エプロンを外しながら。蘭がにっこり笑いながら。和葉と青子が待つちゃぶ台の。空いた座布団に座る。
毛利探偵事務所の三階。工藤邸の居間のような広さも装飾品もないが。
年頃の女の子が三人。それだけで、なんだか華やいだ空気。
「平次、今頃工藤君達と何話してるんやろ」
「ねー。三人ともなんであんなに仲良いんだろ。工藤君と服部君は探偵だから分かるけど。快斗なんてただの手品オタクだよー」
「なんかきっと、気が合うんだよ。いいじゃない。仲良きことは美しき哉って言うじゃない」
「蘭ちゃんそれちょっと年寄りくさいで」
「お母さんみたい!!」
「もう!!二人とも溢さないで食べるのよ」
「わーい!!お母さんだーー!!」
「ほな、いっただーきまー……」
三人揃って手を合わせて。
「……あれ?」
「どないしたん?蘭ちゃん」
「今なんか……新一の声が……気のせいよね」
「でもあたしも……なんか快斗の声が……悲鳴?」
「アタシも平次の声、聞こえた気ぃしてんけど……せやけどこんなとこにおるわけないし」
「うん。別に窓の外にも居ないよ」
「玄関、にもいないし」
「気のせいだよね」
「そうだよね」
「そうやそうや」
「じゃあ」
「「「いっただっきまーす」」」
旧PC昇天に伴い。皆様のリクエスト(任意記名)がどなたからのものだか分からなくなってしまったのですが。
このリクエストだけは覚えています。余りの力強さに(爆)
一度に20個全てのお題についてのリクエストが可能だったのですが(勿論飛ばすことも可能)、一つのお題について狙い撃ちでリクエストしたのは。
一人だけでした。その方のリクエストです。カップリングでなくシチュをリクエストしてくださいました。
というわけで、ご期待に添えたでしょうか……不安ですが。
新平快。三人揃うと一番切れ易いのは新一だと思います(爆)。え、平次じゃないのかって?平次は確かに熱い男なのですが。
切れる、という意味では新一が切れ易いイメージ。特にこのメンツだと地が出易いというかなんと言うか。
そして快斗が煽るので。うっかり平次は宥め役に回る気がします。や、このメンツだとね。このメンツの時限定ですよ?
でも結局切れて収拾つかなくなる感じ。きっと女の子が止めに入るまで喧嘩してるんです。
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