「平次。メール来たよ」
「お。おおきに」
グンと気温の下がった大阪。
服部家では早々に炬燵と火鉢が出た。
「体を鍛えるため」という名目で、基本的には平次は暫く使用禁止で。家族の一員でもない和葉の為に出されたようなものなのだが。
和葉が一緒に居る時だけは。一応使用が許可されている。
ので。
こんな風に。まだ10月半ばだというのにガッツリ気温の落ちた日の夕方には。
和葉の存在は有り難い。
そんな不謹慎な平次の企みに気付くことなく。
炬燵に入って栗を剥いていた和葉が。寝っ転がっている平次に、ポンと携帯を投げた。
ちなみに。栗は、本日の服部家の晩御飯・栗おこわに入る予定のものであり。
何故それを家族の一員でもない和葉が剥いているのかなどと。
今更突っ込むだけ無駄というものである。
背面から投げられた携帯が。綺麗な弧を描いて平次の顔の殆ど正面に落下してくる。
「ナイスキャッチ」
「お前の投げ方がよかっただけやろ」
「ホンマ?いややわ照れるわぁ」
和葉は。なんだかさっきから機嫌がいい。
炬燵が嬉しいのか。火鉢が嬉しいのか。火鉢の上で焼かれている干し芋が嬉しいのか。
一頻り炬燵の中で平次と足の場所取り合戦を行ってからは、上機嫌で。鼻歌など歌いながら。
栗を剥いている。
「誰からメール?工藤君?」
「おう……って、あーー」
「蘭ちゃんに内緒なん?ええよ、別に。喋らへんし」
随分と、機嫌がいい。
平次が新一からのメールを受け取る現場に居合わせると。
いつだって。
「平次になん送る時間があったら、蘭ちゃんにメールしてって言うて!!」と顔を顰めるのだが。
無論。和葉の機嫌がよいのには何の問題もないし。
寧ろ有り難い。
「なんなん?調査の協力?」
「せやなあ……なんや、工藤が手ぇ離されへん間、代わりに行って欲しいとこがあるっちう感じやな」
「ほな、工藤君が今追ってる事件とは、関係ないん?」
「いや。ちゃんとは書いてへんけど、関係ありやと思う」
思うどころか。ありありだ。
久々に。例の黒づくめの組織のお出ましだ。
「勿論平次は協力するんやろ?」
「ん、んー。せやけどなんか、東京来い言うてるし」
「なんやの?平次!!」
後頭部を。栗が一つ襲う。
「和葉お前。食べ物で遊んだらあかんて、ガキの頃ようけ言われとったやろ?」
「それ返して。まだ剥いてへんの」
「ほら」
器用に腕を伸ばして。栗を返す。
寝っ転がっていた炬燵から這い出ると、和葉と向かい合うように座り。
片手で携帯のメールをスクロールしながら、ガリガリと頭を掻く。
「東京がなんやの!?いっつも飛んでくくせに」
「せやけどなあ」
「平次、工藤君の親友なんちゃうの?勿論、助けてあげるんやろ!?」
「お前は、それでええのんか?」
「アタシ?」
キョトンと。和葉は首を捻る。
「アタシは、ええに決まってるやん」
「そか」
「当たり前やろ?アタシかて工藤君にはお世話になったし、なんと言っても蘭ちゃんの彼氏さんやもん」
「や、まだ付き合うてへんで、あそこ」
「似たようなもんやん。平次が工藤君の手助けして、それで事件が早よ解決して。そんで工藤君が戻ってきたら、万々歳やん?」
「そらそうやなあ」
「もう!!何煮えきらんこと言うてんの!!……そんな危険な依頼なん?」
「んー。まあ、危険っちうたら危険やけど。まあ、事件追っかけてたらこんな危険は毎度やし。俺より寧ろ工藤のが……」
「それやったら!!ますます平次が助けてあげなあかんやん!!そら……アタシかて平次が危険な目ぇに会うんいややけど。せやけど、工藤君が大変な時、蘭ちゃんはちゃんと工藤君のこと待ってんのやもん。アタシばっか我侭言われへんわ」
「ま、俺は大丈夫や」
「うん。アタシ、平次のこと信じるてるもん。せやから、行って来?」
「ああー」
「なんでそんな煮えきらへんのよ!!もう!!」
再び。栗が平次の額を襲う。
なかなかにコントロールがいい。
「もう!!ちょう、携帯貸して!!」
「あ!!アホ!!見んなっちうに!!」
「読まへんもん!!」
素早く平次の片手から奪った携帯を片手で軽やかに操作する。
ちなみにもう片方の手はには。包丁。
既に返事を書く画面になっていたので、パッと見新一からの依頼メールは見えない筈だ。平次は携帯メールを引用設定にはしていない。
和葉の片手でピピッと数回ボタンを押すと。
「はい。これでええわ」
と携帯を差し出す。
「……何しくさってん。お前」
携帯を開くと。「送信できました」の文字。
慌てて送信履歴を確認すると。工藤新一宛に一通のメールが送られている。
開いて。
「……お前……これ……」
「ええやん。大好きな工藤君のためやん?」
「つーか、あんな一瞬でお前、これ打ったんか?」
「へ?知らへんの?それ、一発変換で出んねんで?」
「そんなん知らんわ。使たことないし」
「可愛いのにー」
「可愛いって、そらお前らがやるんはええけど。俺と工藤やと気色いで?」
平次の携帯画面には。画面一杯に。OKの文字。
ハートマークで。
……うわぁ……工藤のげんなりするんが目に見えるようや……。
「ええやんええやん。それより平次、町内会のハロウィンパーティーん時の仮装やけど……」
「あ、悪い。俺、それ行けへんくなったわ」
「はあ!?なんやのそれ!!」
ああ。機嫌のいい理由は。そこにあったのかと。
合点が行きつつも。
「俺その日、東京行かなあかん」
「東京って……まさか……」
「そ。そのまさかや」
地元のハロウィンパーティーを。毎年和葉が楽しみにしているのは。勿論知っていた。
いつもなら一も二もなく馳せ参じる工藤新一からの依頼を。
どうしようかと柄にも無く迷ってしまったのは。
「せやかて!!今年は一緒に行くって約束したやん!!」
去年のパーティーを。事件ですっぽかして。
それはもう、盛大に怒られて。
今年は絶対絶対絶対絶対。事件があろうが何があろうが。一緒にパーティーに出ると。
和葉のみならず、平蔵・静華・遠山父にまで誓わされてたからで。
「せやかて、和葉が言うてんで?工藤助けて来いて」
「う」
「メールの返事したん、お前やし」
「い、今から、やっぱゴメンて」
「……工藤のことやからなあ。さっきのメールで、もう色々手配してもうたやろしなあ」
「うう」
「それに、人助けなんやろ?」
「そう、やけど」
「これで事件解決したら。工藤が帰って来るかもしれへんし」
「うーーー!!」
意地が悪いかな。と思いつつも。
和葉が出したばかりのメールをちらつかせると。
思いっきり膨れっ面で。
上目遣いで睨まれる。
「和葉が、行っていい、言うたんやもんなぁ?」
それなら。平蔵も静華も遠山父も。納得せざるを得ないだろう。
「ま、断ってもええで?今から」
「……」
「そんで工藤が戻ってくるんが遅なっても……」
「もーーー!!ホンマずるいわ!!平次のアホ!!ドアホ!!」
今この展開がずるいのは認めるが。
しかしここまでの展開は平次にとっても予想外で。
寧ろ和葉が自ら墓穴を掘ったとしか言いようが無い。
「もう知らん!!」
「東京、行ってええんやんな?」
「ドコでも好きなとこ行ったらええわ!!もう平次のことなん知らんもん!!」
「お前が言うたことやで?」
「わかってるもん!!そのかわり!!」
ビシッと。
「ちゃんと工藤君の依頼果たして。工藤君、早く戻って来れるようにしたらなあかんよ!!」
「そらもう」
突きつけられた包丁に。
思わず冷や汗。
***
「新一……これは……」
「ああ……なんか知んねぇけど」
「いつもこんな……」
「や、そんなことはねぇよ?いつも普通だけどな、あいつ」
寧ろ顔文字や記号などの類は面倒くさがって一切使わないので。素っ気ないくらいなのだが。
阿笠博士に冷ややかな視線を送られて。
しかしコナンは動じない。
「よっぽど機嫌よかったんじゃねぇの?」
「そうかのう……」
「ま。なんにしろよかったぜ。この作戦、あいつが出てきてくんねぇと始まんねぇからな」
薄く笑うと。
もう携帯には目もくれずに。次の準備を開始していた。
刃物を振り回すのは危ないなあと。和葉はそういうお行儀の悪いことしないといいなあと。
思いつつ、絵的になんかよかったのでそのまま採用(爆)。いいのか自分。そんな節操ない状態で。
というわけで。コ蘭と平和が同率くらいだったリクでしたが。平和で。しかも船上ハロウィンネタで。
つか、本誌見た時から書きたかったんですよね。あの平次からのレスは実は和葉が打ちました、みたいなネタ<みたい?
寧ろ平次だったらキモイよ。でもまあ、どっちにしろコナン君はスルーです。気にも止めてくれません。
何しろ今彼の頭の中は。黒の組織と対決することで一杯ですから(爆)
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