満月の明るい晩。
風が。薄い生地のカーテンをヒラヒラと躍らせる。
ピンクを基調にした可愛らしいその部屋は。
今は青白い月の光に照らされた。モノトーンの世界。
「……青子」
そっと声を掛ける。青子は目を覚まさない。
「青子」
肩を静かに揺する。
漸く。その瞳が。そっと開かれた。
「……青子」
「快斗……?」
ゆっくりとその唇が動いて。自分の名を呼ぶ。少し掠れた声。
「どうしたんだよ、青子。泣いてたぜ」
「快斗だ……」
「おう。黒羽快斗様だ」
「よかった……」
「んだよ。怖い夢でも見たのか?」
「うん」
小さく頷く。そっと頬に差し出した手に。青子が触れる。
「嫌な夢」
「どんな?」
「……」
「話せよ。その方が楽になるぜ?」
「快斗が……」
「……俺?」
「撃たれそうになる夢」
「ばーか。勝手に俺を殺すなよ」
「……お父さんに」
きゅっと。青子の指が、快斗の指を握る。
「……おじさんに?」
「青子、止めてって言ったのに。でもお父さんがダメだって」
「……」
「快斗は、悪いことしたからダメだって。幾ら快斗でもダメなんだって。悪いことしたから」
「うん……」
「お父さんは刑事だから。悪いことした人を許すわけにはいかないって」
「……」
「幾ら快斗でも。快斗だから。だから、ダメだって」
「青子……」
月が。少し翳って。部屋を一段と暗くする。
開けっ放しの窓から入る風が。快斗と青子の髪を軽く揺らす。
「それで、お父さんが」
「そっか……」
再び。青子の目尻から涙が一つ。
「快斗、悪いことしちゃダメだよ」
「……うん」
「快斗は悪いことなんかしないと思うけど。でもこれからも、何があっても絶対絶対ダメだからね」
「わかった」
「例えば青子が殺されても」
「怖いこと言うなよ」
「それで敵討ちでも。でも悪いことはダメだからね」
「青子……」
「悪いことは、しちゃダメだからね」
「……」
「夢の中で、青子沢山泣いたけど」
「うん」
「お父さんも泣いてた」
「……」
「快斗も泣いてた」
「……」
「あんなの、絶対ヤダ」
「青子……」
「だから、快斗、悪いことは、絶対にダメだからね」
「わかった」
「絶対に。絶対だよ」
「……うん」
「約束する?約束して?ね?」
「うん……約束する」
雲が切れて。月明かりが再び。青子を照らしだす。
「絶対。絶対だからね」
「わかったから。もう寝ろよ、青子」
「うん。お休み、快斗」
「……お休み」
すぅっと。引き摺り込まれるように。青子が再び眠りの淵に落ちる。
「悪いこと……か」
殆ど覚醒しなかったのだろう。まだ半分眠りの淵に居たから。
それで気付かなかったのだろう。
どうしてこんな時間に。どうして自分の部屋に幼馴染が居たかなんて。
窓が開いていることも。
月が。酷く明るいことも。
起きた時にはきっと。それもこれも全部夢だったと思うのだろう。
「青子……」
まさかこの手の中に。
怪盗KIDの衣装を隠し持っているなんて。
きっと思いもしないのだろう。
「……父さん……」
時々思う。父はあの部屋をどんな気持ちで作ったのだろう。
もしかしたら一生。
見つからないことを望んだかもしれない。
「青子……ゴメン」
ポツリと呟いて。再び一瞬でKIDに戻って。部屋の窓から飛び降りる。
キラリと。
青子の目尻に。また一粒の涙。
だ、大丈夫だよきっと……悪いことって言っても人の命に関わることはしてないから……ね。
底抜けに明るい快青が好きですが。こんな感じも好きです。
つか、こんなあれこれが根底にあるからこそ、底抜けに明るい快青がいいんだな〜と思うわけです。
新蘭よりも平和よりも切ない。つか、そもそも平和はあんま切なくないんですけどね。新蘭は切ない。
けど、新一がコナンである限りはある意味不可抗力。でも快青は。快斗の意思なので。切ない。ので、好きです。
リクは結構バラバラでしたこのお題。でも快青に下さった方もこんな感じを望んでた……訳ではない気がして、ちょっと申し訳なかったり。スミマセン。
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