日曜のショッピングセンター。
若い二人連れに。道行く人が振り返る。
長身の男は。明るい色の髪、端正な顔立ち。センスの良い服装に、卒の無い身のこなし。
そして。
同じくスラリと背の高い女性は。長い黒髪。エキゾチックな顔立ちの、どこから見ても美人だ。シックな黒を基調とした服に優雅な身のこなし。
男が何か話すと、女が小さく微笑んで応える。
絵に描いたような。美男美女カップル。
但し。若干男の方が緊張気味だ。
「あ、紅子君。そろそろ、お茶など」
「あら。でもさっきお昼を頂いたばかりだわ」
「そ、そうだったね。僕としたことが。はは。あはははは」
「白馬君て。学校でお話するより面白い方ね」
「そ、そうかな?そ、そうだ。映画はどうだろう」
「ええ。いいわね」
二人揃って。映画館へ。
警視総監を父に持ち。数々の難事件を解決して来た。しかも留学経験まである。ある意味度胸の座った白馬が。ここまで緊張するのは。
漸く。口実をつけて小泉紅子を誘い出した初めてのデートだから、というのが最大の原因。更に。
さっきから。周囲の視線が気になって仕方ないのだ。
……まあ。紅子君の美しさですから。無理はありませんけど。
初めて見た私服姿の小泉紅子は。思わず言葉を失うほどの美しさで。
大学生と言ってもわからないくらい大人っぽくて。
……注目されて。当然だ。
自分もまた十分注目に値する容姿なのだが。
とりあえず興味の範囲が事件とかホームズとか怪盗KIDで一杯の白馬はそこまでは考え至らない。
何しろ。異性に興味を持ったのもこれが初めてで。
長年その成長を見守って来たばあやに言わせれば、赤飯ものの快挙なのだ。
ちなみに。同じことを小泉家のじいやが言っていることまでは。白馬は知らない。
……しかしまさか。ここまで注目されるとは。
柄にもなく。緊張してしまう。注目されることには、もう十分慣れきっているはずなのに。
……彼女の連れとして。恥ずかしくないようにしないと。……レディに恥をかかせるわけには行きません。
映画館に到着。
「何か。見たいものはありますか?」
「そうね……」
小首を傾げて。紅子が頭上の上映一覧を仰ぐ。
慌てて。
「紅子君。こっちに。上映一覧のパンフレットが」
「まあ。ありがとう」
二人で一枚の紙を覗き込む。
「今の時間だと……そうですね」
ハリウッド超大作はさっき始まってしまった。元より興味はないし紅子が興味があるとは思えない。
あとは今流行りの日本のホラー映画のハリウッドリメイク。そして和製ホラーが一本。韓流純愛映画。日本の人気ドラマシリーズの映画リメイク。フランス映画。アメリカのドキュメンタリー映画。
と。
『名探偵コナン』
……子供向けアニメとはいえ。毎回、トリックも凝っていて見応えがあるんですけど。
紅子が観たがるとは思えない。
そっとその横顔を窺う。
ミステリアスな瞳は長い睫に半ば隠れて。何を考えているのか、高校生探偵である白馬にも窺い知ることができない。
と。
「あーー!!白馬君と紅子ちゃんだ!!」
突拍子も無い明るい声に。二人は弾かれたように顔を上げると。
そこには。クラスメイトの中森青子と。不貞腐れた様子のその幼馴染。
「おや、青子君。黒羽君とデートですか?」
「やだなー、そんなわけないじゃん!!見たい映画があったから付き合ってもらっただけだよー!!」
……デートじゃなかったのかよ。
僅かに肩を落とす黒羽快斗の様子に。白馬と紅子は思わず苦笑。
「白馬君と紅子ちゃんはデート?」
「それは……」
「勿論。デートですわ」
白馬より先に。紅子がきっぱりと応えて。
スルリと白馬の腕に腕を絡ませる。
「大人ですから。私達」
「うわーー!!紅子ちゃん、カッコいい〜〜!!」
「それほどでも」
「白馬君も、凄いね!!素敵だね!!おっとなー!!」
「それはどうも」
「んで?大人なお二人はこれから何を観ようっていうわけ?」
意味深な視線を二人から送られて。更に不貞腐れて快斗が口を開く。
「中森さんは、何をご覧になったの?」
「『名探偵コナン』!!」
屈託なく。青子は応える。
「お、俺は違う映画が観たかったんだぜ!!でも青子がどーしてもって言うからさーー」
「えーー。快斗だってそれでいいって言ったじゃん!!」
「お子ちゃま青子に合わせてやっただけだって」
「ひっどーい!!でも、快斗だって終わった時にすっげー楽しかったって言ってたじゃん!!」
「だからお前に合わせてやっただけだって言ってんだろ。あ、あんな子供騙しじゃねーかよ」
「やれやれ。怪盗KIDが聞いて呆れる」
「だから。俺は怪盗KIDじゃねーっての」
「『名探偵コナン』はあれで結構、ストーリーやトリックも練られていて。子供向けとはいえ侮れないものが……」
「そうですわ。ラブロマンスとしても、見所がありましてよ」
「そうだよ!!いつもドキドキするよね!!なんで快斗はわかんないかなーー!!」
「ば!!わかんねーなんて言ってねぇだろ!!」
「ホント、快斗ってマジックにしか興味ないんだから」
「ばーろー!!俺様はなあ!!『名探偵コナン』は毎年初日には観に行ってんだ!!」
「え、じゃあ、もう一回観てたの?」
「だから青子に付き合ってやっただけだって言ってんだろ?……つーか」
ふと気がついて。
「……お前らなんで、そんな詳しいの?『名探偵コナン』」
「え、そ、それは」
「お、大人として当然の知識ですわ。ねえ、白馬君」
「そ、そうですよ。常識ですよ、常識」
「ふ〜〜〜〜〜ん。じゃあ、大人なお二人さんは何観るんだよ」
「そ、それは……」
今ちょっと観たいものが無くて。
そう応えようとした時。
「迷ってるなら『名探偵コナン』観れば?」
屈託なく。青子が言い放つ。
「ばっか。この二人はなあ。大人だから観ねぇんだよ。んな子供向け」
「えー。たまにはいいじゃん。あ!!あのね、青子と快斗の半券があると安くなるんだよ!!あげる!!」
「ちょ、おい!!」
「ちょっと快斗の分も出しなさいよー。はい、宜しい!!はい、白馬君!!これで、二人でなんと400円お得!!」
「あ、ありがとうございます」
思わず。勢いに負けて半券を受け取る。
「へー。観るんだ。『名探偵コナン』」
「そ、それは、まだ決めていませんが。青子君のご好意をお断りするのも申し訳ない」
「うん。違うの観るんだったら、捨てちゃって。あ!!快斗!!次、早く行かないと間に合わないよ!!」
「……また映画ですか?」
「違ぇよ。7階の本屋さんで14時から、なんかくれるんだよ。先着100名様つって。変なクマ」
「クマじゃないよ!!もう、快斗ってばなんでわかんないかなあ」
「い、急がないと間に合いませんよ」
「そうだった!!ほら!!快斗行こう!!じゃあ、また明日学校でね!!」
「ええ。転ばないように気をつけて」
慌ただしく。快斗・青子ペア、退場。
***
「どう、しましょう」
「そうね」
渡された半券を、所在無く握り締め。白馬は上映時間を確認。
『名探偵コナン』の次の上映まで、あと10分。
「映画は止めて、どこか買い物でも」
「そうね……。でも私、少し疲れましたわ」
「ではお茶でも。少し座りましょう」
「こんな高いヒール。普段は履かないんですもの」
「え?……そうなんですか……」
「ええ。……折角の白馬君と出掛けるからと思ったんですけど。ちょっと頑張りすぎましたわ」
「では休みましょう」
「こんな服もね。初めて。……背伸びし過ぎたかしら」
「そんなことは。よくお似合いです」
「なんだか、大学生みたい」
「紅子君は大人びていますから」
「そうかしら。でも、それを言ったら白馬君こそ」
「お褒めに預かって、光栄です」
「でも私。ホントはまだ子供なんですわ」
「え」
意外な言葉に。白馬は紅子を振り返る。
紅子は。薄く笑った。
「……中森さんが。ちょっと羨ましい」
「紅子君……」
背伸びをしても。どんなに大人ぶってみても。どんなに大人びて見られても。
「笑います?」
「とんでもない。……実は、僕もですよ」
「あら」
「……僕達は。似たもの同士なのかもしれません」
ニッコリと笑った紅子の笑顔が。
今日朝会ってから。一番綺麗な笑顔に思えた。
「では、映画は。『名探偵コナン』高校生二枚で」
初めてちゃんとした(?)白紅書きました!!この二人は、マジ快の中ではちょっと大人っぽい、でもまだまだ子供なポジションが素敵。
似たものカップルだと思います。でも似合ってると思います。紅子は快斗に、白馬は青子に、自分にないところを求めてるんじゃないのかな。
だから憧れる。でもお似合いなのは白紅だと思うんですよねー。快紅も白青も萌えまへん。
白馬はもうちょっとエスコート上手かなぁとも思ったんですけど。本命相手だと緊張しちゃうと可愛いなと思ったので。ちょっと緊張してます。
えっと何が「初めての…」なのかというと、初デートってことです。分かり辛くてスミマセン。
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