「快斗!!快斗!!ねえ、起きてったら!!」
肩を揺すられて。
……誰だ?
聞き覚えが。あるような、無いような、声。
「ちょっと快斗ったら!!起きてよ!!」
……快、斗?って、この声、中森さんか。
しかし。中森青子に起こされる心当たりは無い。しかも何故か。青子は自分を黒羽快斗だと勘違いしているようだ。
……確かに。似てるけど。
けれど青子も蘭も。一度だってその幼馴染を見誤ったことは無い。
大体。
工藤家の自室で寝ている自分を。どうやったら黒羽快斗だと思えるのだろうか。
肩を。
ゆさゆさと揺さ振られて。
仕方なく。工藤新一は起きた。
「おはよう……中森さん」
「はあ?」
案の定。ベッドの脇には、中森青子。
寝惚け眼で応える新一に。大きな瞳を見開いて、きょとんと疑問符を返す。
「快斗、何言ってるの?寝惚けてるの?」
「……あのね。俺は黒羽快斗じゃ無くて……」
と。
新一は。激しい違和感に、自分の姿を確認する。
……なんだ、これ!!
低い、パイプベッド。清潔感溢れる、けれど薄い敷布団、掛け布団。見慣れない柄のタオルケット。
何より。タンクトップに、パンツ。
……ちょ!!なんだよこれ!!
工藤新一は。どんなに暑くてもいつだってストライプのパジャマを着て寝る。こんな軽装ありえない。
第一。ベッドも。
……ベッドだけじゃねぇ!!
部屋をぐるりと見回す。
自分の部屋ではない。
……黒羽の、部屋か?
残念ながら。快斗や青子が工藤邸に遊びに来ることはあっても、新一は黒羽邸に殆ど来た事が無い。訪れる時はいつも居間止まり。快斗の自室に入ったことは無いが。
そこは探偵の洞察力。一目でそこが快斗の部屋であることを察する。
……なんで、俺、黒羽の部屋で……黒羽のカッコして……。
嫌な予感に。新一はベッドを飛び出す。机の上に鏡にもなるフォトフレームを見つけて覗き込んだ。
……黒羽、だ。
似ているとは言え。自分と他人の区別くらい付く。
多少不明瞭なその鏡に映し出された姿。それは、紛れもなく。
……なんで……?
思いっきり、頬を引っ張る。
寝ている間に快斗、もしくは有希子が新一に変装術を施した、というわけでもなさそうだ。
大体。それこそ睡眠薬でも仕込まない限りそんなことをされたら新一は気付くだろうし。仕込まれたのなら覚醒時に違和感が残るはずだ。
……じゃあ、なんで?
寝ている間に。いつの間にやら。工藤新一が黒羽快斗になってしまったというのだろうか。
……わけがわからない。
昨夜は別に。何もなかった。事件も無かった。別に四人で遊んだわけでもない。
学校から帰って蘭の手料理を食べて。先日まで関わっていた資料の整理。一応宿題。
なんらいつもと変わらない。平々凡々とした日常。
こんなサプライズ。全く心当たりが無い。
「なん、で……」
ポツリと呟いた途端。
後頭部を鞄が襲った。
「ば快斗!!」
「いてぇ!!何すんだよ!!」
「ちゃんとパジャマ着なさいっていっつも言ってるでしょ!!なんでそんな裸みたいなカッコで寝るのよぉ!!」
「裸みたいって……一応、タンクトップ着てるじゃん」
「だ、だだだ、だって!!ぱ、ぱ、パンツ、一枚、で!!」
「あー、まあ。そうだけど」
「は、早く服着なさいよ!!」
そう言われても。勝手知らない他人の家。服の場所など咄嗟に分かるわけが無い。
仕方が無いので再びベッドに戻る。
と。その後頭部を再び青子の鞄が襲った。
「寝るなぁ!!」
「だって」
「今日は青子と遊びに行く予定でしょ!!」
「そうだっけ」
「そうだっけじゃないよ!!もう!!動物園にパンダ観に行くって約束したでしょお!!」
……動物園で。パンダかよ。
常々。高校二年生にしては好みが幼いと感じてはいたが。改めて、実感。
「もしかして快斗。具合でも悪いの?」
「え、何で?」
「だって。いつも青子が起こしに来ると、おはようのチューしないと起きない〜とか、言うのに」
「……」
……そんなこと言ってるのかあいつは!!
「青子、今日ちょっと短めのスカートだから、すっごく警戒してたのに、全然捲らないし」
「あー、いやー、ちょっと、隙がなくて」
「さっきの鞄だって。いつもの快斗なら避けられるよね?」
蘭の回し蹴りなら避ける自信があるのだが。なれない鞄の不規則な動きと、予期せぬ青子の攻撃に。二発とももろに喰らったのは事実。
「ねえ。具合悪いの?」
「あ、えーと」
「それとも青子がおはようのチューしなかったから怒ってるの?」
「ち、違」
「ねえ、快斗」
ずい、と。間合いを詰められて。新一は思わずベッドの上で壁に張り付く。
「熱は無い、かなあ」
「だ、だだだ大丈夫だって」
……ヤバイだろ!!これ!!
相手をすっかり快斗だと思い込んでる青子は。額と額をくっつけて、快斗、いや新一の熱を計る。
「……やっぱりおかしい」
「へ?何が?」
「だ、だって!!いつもの快斗だったら!!」
顔を真っ赤にして視線を逸らす。
「青子がこんなことしたら、いっただっきまーすって、……お、おお、押し倒す、くせに」
……んなことしてんのかよ黒羽!!なんてヤツだ!!
自分のことは棚に上げて。即座に突っ込み。
「青子のこと、嫌いになったの?」
「そ、そんなことないって」
「ねえ、快斗ぉ」
なんの罠だろうか。更に間合いを詰められて。新一は更に壁に張り付く。
……中森さんって、二人きりだとこんなに積極的なのか!?
いつもの彼女からは想像できない展開に。新一の背中にはただ冷や汗。
……大体!!何で俺が黒羽になってるんだよ!!
一体今頃。工藤新一本体はどうなっているのだろうか。
……待てよ?俺が黒羽の体に入っているってことは……。
工藤新一の体には。黒羽快斗が入っていると考えるのが妥当ではないだろうか。
何がどうしてそんなことになったかは置いといて。
二人が、入れ替わってるとしたら……。
……やべぇ!!
きっと。同じような展開が、工藤邸で繰り広げられているに違いない。
今日は。新一も蘭と約束がある。
蘭が、起しに来る可能性は100%。そして。
黒羽快斗なら。こんなチャンスを逃す手は無いとばかりに……。
……やる!!あいつなら絶対、やる!!
咄嗟に。迫る青子を押しのけて、ベッドから飛び降りる。
「ちょっと!!快斗!!」
「青子!!俺の服、どこだ!?」
「え、ええと、そこの洋服ダンスの……」
「サンキュー!!」
乱暴に洋服ダンスから至極適当にズボンとシャツを選び取り。とりあえず着込むと家を飛び出す。
「ちょっと!!快斗!!」
……畜生!!俺としたことが油断したぜ!!
なんでもっと早く思い至らなかったのだろう。
……蘭がやべぇ!!
兎に角。そうだ、携帯……なんて持っているわけが無い。部屋の何処かに快斗の携帯があったかもしれないが。
かと言って、今時公衆電話を探してるくらいならタクシーを拾って工藤邸に向かったほうが早いくらいだ。
あの角を曲がって、大通りに出れば。タクシーは拾える。
お金は持っていないが、そんなもの家の前で待たせればいい。
その瞬間。
「!!」
角を。猛スピードで曲がって来た人物と正面衝突。一昔前のギャグ漫画のようにお互い頭を強く打ち。
工藤新一は。その場に倒れこんだ。
***
「なーんだ。つまらない」
「紅子様?」
「なんだか予想通りの展開だわ」
「新しい魔術を習得なさったからといって、余り悪ふざけをなさるのも……」
「あら。これくらい、可愛いものでしょう?」
水鏡を覗きながら。小泉紅子は薄く笑った。
「黒羽快斗様の意識と、工藤新一様の意識を、入れ替えましたな?」
「ええ。それと、中森さんにちょっと、ね」
「そしてそのお二人が今、ぶつかったことで……」
「そうね。元に戻ってしまったわ。つまらないったら」
「お嬢様……」
「今日一日くらい、頑張って欲しかったんだけど、仕方が無いわね」
水鏡の中では。それぞれの幼馴染を追って来た毛利蘭と中森青子が。倒れた幼馴染を抱き起こして必死にその名前を呼んでいる。
「……お姫様のキスでしか目覚めないように、魔法を掛けてしまおうかしら」
「お嬢様」
「……はぁい」
細い指がシュッと水鏡をすべると。
水は。ただの水に戻った。
というわけで!!お約束だ!!絶対どっかで見たことのあるネタに違いない!!違いないけどいい!!王道万歳!!
チェンジさせるカプはやっぱり新蘭・快青が多かったですが、実は「女の子をチェンジ!!」というリクの方が数は多かったです。
あと、平和と新蘭のチェンジとかもありました。「蘭ちゃんと和葉の制服をチェンジ!!」とか。
しかし……絵的には萌える制服チェンジ。文章で表現するのは難しいですよ(爆)
あと、実は蘭ちゃんのセーラーはあんまし萌えません。胸の大きい子はブレザーが似合うと思います。腹チラは嫌いじゃないですけど。
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