目の前に。次々に置かれるケーキと。芳しい香りを放つ紅茶。
「とりあえず、こんなもんでいいかしら?」
「いいわよ〜〜vvありがと!!でも珍しいなあ、美和子が」
「……なによ」
「だってケーキバイキングなんてすっごい久し振りだし、大体いつも誘うのは私で美和子はつきあうばっかりだったじゃない?」
「そうかしら」
「そうよう。まあ、美和子は何でも豪快に食べてくれるから。誘い甲斐があるんだけど」
「やあねぇ、もう」
「って、いつまで立ってるのよ。食べないの?とりあえず座れば?」
促がされて席に座り。それでも佐藤美和子はどこか落ち着かない。
紅茶を何度も手にして。それでいて一口も口をつけず。
そんな美和子の様子を敢えて気付かない振りで。宮本由美は次々と皿の上のケーキを平らげる。
ケーキバイキングのケーキは。一つ一つが小さいので。
由美にかかれば良くて三口、下手すると二口だ。
「おいしい〜〜〜vvやっぱここのケーキは生クリームが絶品よね〜〜」
「そ、そうね」
「あとタルト生地。ホント美味しいわよね〜〜。幾つでもいけちゃうわ」
「ええ」
「美和子も食べなさいよ。どうしたの?誘っておいて、ダイエット中とか言わないでよね」
「そうじゃないんだけど」
相変わらず視線の定まらない様子で。
「ちょっと、由美に聞きたい事があるんだけど」
……そら来た。
予想通りの展開。
ここのところ非番はいつだって高木刑事とデートで。すっかりオンナの友情二の次状態の美和子からの突然の誘い。
話があるに決まっている。
「なぁに?合コンの予定なら暫く無いわよ……って、美和子にはもう関係ないんだもんねぇ。お熱いことで」
「そ、そういえば。由美も最近行ってないみたいじゃないの。合コン」
「そう?そうでもないわよ?」
しれっと。
「美味しい話があればいつでもなんとしてでも行くんだけどねー。最近なかなかないのよ」
「ふぅん」
「婦警と聞くと制服で〜〜みたいな奴らが多いじゃない?制服姿で合コンなんか行けるかってのよ。なぁんか、勘違いしてるのよねーー」
「それはまあ、確かにね」
「それでもまあ。顔がよくて背も高くて高収入なら馳せ参じるんだけどねえ。あ〜あ、誰か、ヒルズ族とかとコネ無いのかしら」
「由美って、昔からそれ言ってるわよね」
「なぁに?ヒルズ族?」
「違う違う。顔がよくて背も高くってってヤツ」
「そりゃそうでしょう!!勿論それが全てじゃないけどね。中身が重要。でもね、もし中身が同じなら、顔がよくて背が高くて高収入の方がイイに決まってるじゃない?」
「それは、そうだけど」
「でしょ?現実は兎も角言うだけならタダなんだから」
「現実は兎も角?」
チラリと。意味有りげな視線を美和子が由美に送る。
気付いていながら、気付かない振りで。
「そ。現実は兎も角」
「ホントに?」
「そうよ。なんで?」
わかっていながら。自分からは言ってやらない。わざと促がす。
美和子は。容疑者相手なら兎も角、友人には滅法弱いのだ。先に根を上げる。
「ねえ、由美」
「なぁに?」
「貴女……付き合ってるの?」
「誰と?」
「その……白鳥警部、と」
「やぁね。それ、総務課の友美に聞いてって言われたんでしょ」
「そう、だけど」
「だろうと思った。やっぱりそこかぁ。噂の根源は」
「やっぱり?」
「私前から思ってたんだけど。友美って絶対白鳥警部に気があるんじゃないかなあ」
「え、でも……」
「随分前だけど。美和子が白鳥警部に気があるって噂、流れたじゃない?」
「ああ、あれ?全く、事実無根もいいとこだわ!!」
「あれね。多分、友美が流したんだと思う」
「ええー?あの子が?」
「うん。なんて言うのかな、悪意があったというより、カマ掛けたんだと思うのよ。美和子に」
「私に?」
「あと白鳥警部のね。反応が見たかったんじゃないかなー」
「なんでまた……」
「だから言ってるでしょ。気があるんだって、白鳥警部に」
チョコレートケーキを頬張りながら応える由美に。美和子は眉間に皺を寄せる。
「だって……あの友美が、よ」
「そうねえ」
「美人だし。もてるし。いいとこのお嬢様なんでしょ?そんな遠回しなことする必要、ないじゃない」
「ま、ね。警視庁の、美和子に次ぐナンバー2だもんね」
「私はそんなんじゃないってば」
「それは美和子が決めることじゃないの」
「そうだけど」
「兎に角ね。探りを入れたくて噂を流した、もしくは、ついつい色眼鏡で見ちゃうからそう見えちゃったのかもね。で、美和子が白鳥警部に気があるって噂を流して所、判明したのはその逆で。白鳥警部があんたにぞっこんだったってことなわけよ」
「ぞっこんって」
「ところが美和子は高木君とくっついちゃって、これで一安心。と思ったところに白鳥警部の周りをうろつき始めたのが居るものだから」
「……」
「まぁた噂を流してみたってわけ」
「で?実際のところはどうなのよ」
ミニシュークリームを口に放り込むと。ジロリと美和子に睨まれる。
既に由美のお皿は空。それに対して美和子は、ケーキに一つも手をつけていない。
「……ケーキ、取って来ていい?」
「だぁめ。ちゃんと質問に答えて」
「なんだっけ。質問」
「惚けないでよ。……付き合ってるの?白鳥警部と」
「付き合ってなんてないない」
「じゃあ、好きなの?」
……直球で来たなーー。
目の前のケーキがなくなって。ティーカップも空で。逃げ場が無い。
「それはよく分からないなー」
「分からないって。自分のことでしょ?」
「好きか嫌いかって言われたら、好きよ?でもねー。それって多分、今美和子が言ってる好き、とは違うんじゃないかしら」
「じゃあ。噂はホントに噂なのね?」
「付き合ってないのは事実よ。白鳥警部、まだ美和子のこと諦めてないもの」
「付き合う気も無いのね?」
「それはどうかなー。白鳥警部が美和子のことすっぱり諦めて。もう、私にメロメロ〜〜是非是非付き合ってください〜〜〜って言ったら。わっからないなー」
「茶化さないでよ」
「別に茶化してなんか無いわよ。本気本気」
「……本気なの?」
呆れたように。溜息混じりに吐き出されて。
……それは、どうかと思うけど。
美和子の目には。白鳥警部は大した男とは写っていないのだろう。
高木刑事という大本命がいるのだし。人には好みというものがあるのだから仕方が無いといえば仕方が無い。
けど。
好きか嫌いかと言われれば、好き。けれど。それが恋愛感情じゃないことくらい、子供じゃないんだからちゃんとわかってる。
それでも。
……まんざらじゃあ、ないんだけどな。
佐藤・高木両刑事のデートの尾行に、何度か付き合っただけ。今のところ白鳥警部の目に、自分は恋愛対象として写ってはいないだろうし、それは別に問題ない。お互い様だ。
それでも。
好きか嫌いかと言われれば。それこそ高木刑事だって千葉刑事だって好きだけど。
その好き、とも。ちょっと違うのだ。
……難しいなあ。
「な〜〜んてね。冗談vv」
「もう。心配掛けないでよね」
「あら、失礼ね。私がいつ美和子に心配掛けたって言うの?」
「だって吃驚するじゃない。いきなりそんな噂耳にしたら。だって、由美は何も言ってないし」
「そりゃそうよ。実際付き合ってないんだモノ」
「あ〜あ。でもよかった」
「そう?」
「そうよ。はあ、安心したらお腹空いちゃった。私もケーキ食べよーっと」
「じゃあ私。次取って来る」
「いってらっしゃ〜〜〜〜い」
席を立って。チラリと振り返るとケーキを食べる美和子は満面の笑み。
……ま、いっか。
小さく苦笑すると。
由美は次のケーキを皿一杯に盛るべく。列の最後尾についた。
だってこれもリク頂けると思ってなかったカプなんですもの嬉しい〜〜〜〜!!嬉しい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
もう、この世に一人でも居て下さればそれで嬉しい白由賛同者!!嬉しいですーーーーーーーーーーーー!!ありがとうございましたぁあ!!
そんなわけでまあ友情以上恋愛未満な白由なんですけど、こんな感じでなんつかほんのりとイイ感じが流れてるといいなと思います。
燃えるような恋でなくていい。手が触れて赤面しちゃうようなこっぱずかしい恋でなくていい。
大人の恋がいい。ちょっとドライでどこか割り切っていて、それでもほのぼの癒される感じの大人の恋がよいのです。妄想ですか妄想ですよ。
つか、私はイイ男だと思うんですけどね白鳥警部。白鳥も由美さんも大好きですホント。
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