ホントは。ちょっとだけ予感してた。
予感どころか。確信してた。
こんなことは今に始まったことじゃない。し。寧ろ。
幼馴染が。約束をすっぽかす理由が。事件以外だったことなど無いのだから。
……事件やなかったら。許さへん。
けど。事件なら仕方ないかと。つい諦めてしまう。子供の頃からの習慣かもしれない。
それでも。流石に二時間音信不通で放って置かれると。何か危険な目に会っているのではないかと、それが不安で。
掛けた電話には。相変わらずの元気な声。
嬉しくて。つい、怒鳴りつけた。
……よかった。全然無事やん。
心配していたなんて。悔しいから、絶対に言ってやらないし。
事件なら仕方が無いとわかっているけど。勿論文句も苦言も遠慮はしない。
わかっているけど。わかっていると思われるのは、癪だから。
……どないしよっかなー。とりあえず今日のご飯は奢らせて……。せやけどそんだけで許すんもつまらへんし……。
電話は。さっき乱暴に切られた。
何が何だかわからなかったけれど。兎に角事件を解いてる真っ最中だったし。
どうやら。自分との会話が事件解決への糸口になったみたいだったし。
……何も言わんと。いきなり切ったもんな……。
普段から一言二言多い幼馴染が。何も言わずに電話を切ったということは。思考が100%事件に向いた証拠。
友達に話せば。「和葉、ホンマにそれでええの!?」と詰め寄られるだろうけど。
……アタシは。それでええねん。
そんなことが。寧ろ幸せに感じてしまうのだから。
……けど。勿論奢って貰うんやけどな〜。
ここで喧嘩して終わりにしてしまうより。余程有効ではないだろうか。
あとは。
自分との会話で掴んだ糸口から事件を解いて。この大阪まで戻ってくるのに。
一体どれくらい掛かるだろうか。
……まさか。日付は越えへやんな?
終電すら。飛ばさないだろう。これは、幼馴染の勘。もしくは信頼。
あの様子なら。きっと。あっという間だ。
***
「待たされれば待たされるほど。会えたとき嬉しいじゃない?」
そう言って。蘭は笑ったと言う。園子に聞いた。
……蘭ちゃんは。さすがに待たされ過ぎやと思うけど……。
それに比べれば。自分なんて可愛いものだろう。
絶対に。今日中に平次は帰ってくる。
きっと。
最高の笑顔で。
***
「はーー!!ホンマ助かったで。おおきに、和葉」
「……」
「なんやお前。ここんとこ皺寄ってるで」
「当たり前やろ?あんた、最初になんか言うことあるんちゃう?アタシに」
「あーー、ああ、まあ、あれや。すまんかった」
「ホンマに。平次、もうちょい学習能力ってもんつけられへんの?」
「なんやと?人をアホみたいに言うなや」
「アホやんか!!大体、なんでアタシと約束してる日に東京なん行くん?」
「時間までには戻ってくるつもりやったんや!!まさか目の前で人死ぬなん、思わへんかったしなあ」
「そんなん、信用出来へんわ」
「ホンマじゃ!!その証拠に、見てみぃ!!これ!!」
ズイ、と渡されたそれを。受け取って確認。
「……新幹線のチケット」
「そうや」
「……しかも指定席」
「……せや」
「……無駄にしたん?」
「……おう」
「ほんっまにアホやねえ!!」
「うっさいわ!!」
今まで。指定席なんて取った事が無いくせに。
いつだって自由席で。
だってそんな。
時間に縛られるのなんて。大嫌いで。
「……なんで?」
「せやから。ちゃんと時間までに戻ってくるつもりで」
「キャンセルとか、せぇへんかったん?」
「そんなん気ぃ付く余裕あったら、メールくらい書いてるわ」
「……へぇ……」
「なんやねん」
「べっつにー。なぁんも」
……どないしよ……嬉しい。
幼馴染が無事で。しかも事件もちゃんと解決して。自分もそれに一役買えたというだけで。
嬉しいのに。
……こんなん、ズルイわ。
嬉しいけど。でもやっぱり山ほど。文句は言ってやるつもりだったのに。
それなのに。
四時間待ったことを。全部チャラにしてしまいたくなって。
……アカンアカン!!確りしぃ!!アタシ!!
「……ほな、帰ろか」
「へ?なんか食わんのか?まあ、あれや。……奢るし」
「ええよ。終電なくなるもん」
「……和葉?」
「ええって言うてんの!!ほら、もう。アタシ帰るから!!」
「ちょ、ちょう待てや!!和葉!!」
今はダメだ。
嬉しくて。
顔に出てしまう。
西の高校生探偵である平次になんて。すぐにばれてしまうに違いない。
……せやけどこういうことには鈍いから。大丈夫やろか。
有無を言わせず踵を返して地下鉄の改札を目指すと。幾分不満げに。それでも一応、平次も和葉の後をついてくる。
悔しいので。
そのままずっと。目を合わさずに、寝屋川まで帰った。
***
待って待って待ち続けて。漸く無事に会えただけで嬉しいのに。
こんなサプライズ。ズルイと思う。
凄い!!ラブい!!平次がラブい!!ラブいと思うんですけど、どうでしょうか!!どうでしょうか!!どうでしょうか!!
いやもう、うちではありえないくらいのラブいっぷりですよ!!え、気のせい?妄想ですか?
でもね。たまにはこれっくらいはやるんじゃないかなとか思うんですけど。たまにはね。たまにはね。たまにはね。
やるんだけどね。結局帰って来れないのが平次だと思うんですよ。それでも許しちゃうのが和葉だと思うんですよ。
他の理由なら兎も角、事件ですから!!推理ですから。許してしまうのです。ビバ幼馴染み!!
でも素直になんて許してあげないわけで、そんでもって沖縄編に続きます!!イェイ!!
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