綺麗に着飾った人の群れ。
壁の一面から天井にかけてが全てガラス張りで。こんな天気のよい日には、まるでオープンテラスの趣。
派手過ぎず。かといって、地味過ぎず。
品のいいレストランでの。貸切パーティー。
「ふう」
そっとガラス戸を開けて。一人バルコニーに非難した園子は。大きな溜息をついた。
いい店だと思うのだが。如何せん、人が多い。どうせならガラス戸を全部開けて、庭も開放してしまえばいいのにと思う。
……ま、まだちょっと、寒いか。
肩を出したドレスでは。若干まだ肌寒い。手にしたグラスを弄ぶ。中身は勿論ノンアルコール。飲んだところで暖が取れるわけでもない。
……久し振りだし。人に酔ったかな。
最近、パーティーの類は全部面倒臭がって。どうしてもと言うモノ以外は断ってきた。
パーティーは嫌いではなかったけれど。やっぱりなんだか面倒くさい。最近、姉が積極的に参加することもあって、自分は一歩引いた感じだ。
寧ろパーティー嫌いだった姉の綾子は。今ではその婚約者、富沢雄三の人脈を広げる意図もあるのだろう。二人揃って頻繁にパーティーに参加している。
……案外。そう言うところは、抜け目無いんだよなあ、姉貴は。
手にしたグラスのリンゴジュースを一口飲むと。
体が一段と冷えた気がした。
***
「やれやれ。こんなところにお姫様が一人か。風邪引いてもしらねーぞ」
突然の声に。園子の眉間に皺が寄る。振り返りもせずに。
「だーれがお姫様よ。やめてって言ってるでしょ?」
「ははっ。相変わらずだね、園子ちゃんは」
「相変わらずはそっちじゃない?いいの?主賓がこんなところで」
「ま、ちょっとならね。寧ろ主賓はあっちでしょ」
レストラン内の人だかりを顎で示す。
人だかりの中心には、金髪の親子。よく似た父と娘。娘の、深い緑の瞳と抜けるような白い肌が目を引いた。
「心配しなくても。さっきちゃんと挨拶はしたわよ。お噂はかねがねって言われたけど、何喋ったのよ」
「宜しく頼むよ。日本語には苦労しないはずだから」
「あの時も、あんたの姿見えなくてどうしたのかと思ったんだけど」
「あのねえ、園子ちゃん」
男は。それでも幾分レストラン内からの死角に隠れるようにしながら。大袈裟に溜息をついてみる。
「何度も言うけど。年上にはもうちょっと敬意を払ってもいいんじゃないかな」
「それに値すべき人間ならね」
「酷いなあ」
「そうお?それは失礼いたしました。拓也さんにおかれましてはご機嫌麗しゅう」
「……そこまで言ったら嫌味だよ」
クスクスと笑う男は。
褐色の肌。幾分釣り気味の切れ長の目。黒い肩位までの長髪を、綺麗に後ろで束ねている。
野性的で。それでいてどこか育ちの良さが伺える。
三つ揃えの海外ブランドのスーツを造作なく着こなすのは、今日の主役。の、片方。
三船拓也。
三船財閥の元御曹司で、26の若さで三船電子工業の社長を務める。辣腕家だ。
元、と言っても。別に勘当されたわけではない。
前当主の父親が早くに亡くなり現在の当主を兄が努めているというだけだ。三船拓也は、四男坊。
鈴木財閥の令嬢である園子とは一応、幼馴染。と言っても、寧ろ歳の近い綾子の幼馴染と言った方がいいかもしれない。
そして。
件の金髪緑眼の令嬢は。アメリカの事業家の娘で、拓也の婚約者。
パーティーは。そのお披露目のためのものであって。
とても。拓也がこんなところで油を売っていていいようには思えなかった。が。
本人だけは。どこ吹く風。
「でも。姉貴の婚約も意外だったけど。拓也さんまでとはね」
元々。財閥だのなんだのと言うものは。大嫌いだと公言して憚らなかった男なのだ。その父の死後、兄の命令とは言え社長職に就いたことすら園子にとっては意外だった。
大学を卒業して二年、各地をフラフラと放浪し。
二年前に三船電子工業を継いで。あっという間に大きくした。
「ま、しょーがないよ。兄貴には逆らえませんて」
「すっかり丸くなっちゃったんだ」
「まあね。歳も歳だし、いつまでも突っ張っちゃいられないよ。それにこの結婚は、これはこれで面白そうだったしね」
「面白そうって……いいの?そんなんで結婚相手決めちゃって」
「いいんだよ。人生、どうせなら面白くなくちゃ」
拓也の結婚は、明らかに政略結婚。
今時古臭いように思えるが、なんだかんだで有効なのだ。こういう関係拡大は。
「好きな相手と結婚したければ、それなりに力がないとね。この世界。こういう世界だから」
「そうだけど。だからって好きでもない相手と結婚するなんて。ナンセンスだわ」
「酷いな、園子ちゃんは。誰も好きじゃないなんて言ってないよ」
「そうなの?」
「そうそう。何しろ美人でナイスバディ」
「呆れた」
「まあちょっと勝気でプライドも高いんだけど。頭もいい。アレで結構、可愛いいしね。何しろ俺にぞっこん」
「へー」
「ちょっと、園子ちゃんに似てるかな」
「あたし?やめてよね。あたし別に、拓也さんにぞっこんなんかじゃないけど」
「違う違う。それ以外。あー、でも、園子ちゃんだってぞっこんなんでしょ?彼氏に」
「……」
園子に軽く睨みつけられて。拓也は軽く両手を上げておどけて見せる。
「……どこまで知ってんのよ」
「京極真、だっけ?空手の高校生チャンピオン」
「……」
「俺、結構格闘技好きなんだよ」
「まあ、京極さんはその筋じゃ有名だけど。けど」
「なんで彼氏だって知ってるかって?ま、そこはそれ。心配しなくていいぜ。君んとこのおばさんにキツーく口止めされてるし」
「やめてよね。真さん、一般人なんだから」
「はいはい。分かってるって」
「……でも、やっぱり意外だわ。彼女があたしタイプだなんて。拓也さんって、うちの姉貴のこと好きだったんじゃないの?」
「……」
「あたしと姉貴じゃ。全然違うじゃない」
「まあな。だから……彼女は好みのタイプではないわけ。園子ちゃんもね」
「それはそれは。光栄だわ」
「でもな。どうせ好きな相手と結婚できないなら、ああいうタイプは面白いぜ、きっと」
「よくわかんないわ」
「そう?俺は別に、園子ちゃんとなら結婚してもいいなって思ってたぜ」
「あたしとならって何それ。ちょっと、失礼じゃない!?」
「でも、園子ちゃんだってちょっとは思ったことあんじゃない?」
園子の眉間に、盛大な皺が寄る。
睨みつけられて。それでも三船は平然と。手すりに寄りかかり空を仰ぐ。
「どうせ詰まんない政略結婚させられるならさ。俺ならいいかなって」
「まさか。自惚れないでくれる?」
「そうかな。ほら。色黒だし」
「関係ないでしょ、そんなこと」
「そっかなー。結構自信あんだけど」
「バッカみたい」
フイと横を向くと。綺麗に切り揃えられた薄い色の髪がフワリと靡く。
……ホントは。
そんなことを考えたことが。なかったわけではない。
鈴木財閥の名前に寄ってくる詰まらない男達。そんな奴らと結婚するくらいなら。まだこの男の方がマシだと。
四菱麗華の婚約者候補に名前が挙がってると聞いた時には、ちょっと面白くないくらいには。
だけどそれは。恋愛とは違う。京極真に対する気持ちとは、全く種類が違う。
「拓也さん」
不意の声に。二人は振り返る。金髪の女性。
「外にいらしたのね。まだ寒いのに。お父様が、お探しよ」
「はいはい」
「それに。婚約者の居る身で女性と二人っきりだなんて。何言われるかわからなくてよ」
「ご心配なく。園子ちゃんには好きな人がちゃんといるんだから。ねえ」
「そうよ。心配しなくても大丈夫」
「恋愛成就の秘訣をね。教えてあげてただけだよ。じゃ、園子ちゃん、頑張って」
「勿論よ。ありがとう、参考になったわ」
ヒラヒラと手を振る三船に。園子もヒラヒラと手を振り返す。
軽く会釈して。三船に続いて身を翻した婚約者の。グリーンのドレスが。
ヒラヒラと。ヒラヒラと。
お題を見た時から決めてましたこのネタ!!一度書いてみたかったんです三船拓也!!……需要がないのは分かってますorz
雄綾といい、結構鈴木財閥周辺の人間関係が大好きだったりしますvv
園子ちゃんはコナンの中の誰よりも大人に囲まれて育ったんじゃないかなーって思うんですよね。
だから時々新蘭平和に比べておっとな〜vvなんじゃないかと。
そんでもって色々見て来てるからこそ、恋愛結婚には多大な夢があるんじゃないかと。そう思うのですvv
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