今一番知りたいこと。
怪盗KIDの捕まえ方。
***
「ねーーー!!快斗ーーーー!!」
「あー?」
「あー、じゃなくって」
元気な。この上なく元気な幼馴染の声に。庭に面した居間の炬燵の中から、快斗は気のない返事を返す。
全く。
元気なことこの上ない。
ついさっきまで一緒に。黒羽家の炬燵に潜り込んで二人でミカンを食べていた。
「いい若者が何やってんのよ」
と言う快斗の母の呆れたような声に。
「だって寒いんだもーーーーん」
と二人揃って返していたと言うのに。
ついさっき。買い物に行くと言う母を一応玄関まで見送ったら。
空から、チラチラと。
「……雪じゃん」
積もるほどのものではない。
空は曇天。相変わらず死ぬほど寒いには寒いが。それにしたってここは東京。
寒いといっても氷点下を下ることはなく、雪だって。
漸くチラチラと舞う程度。それすら珍しいくらいだ。
それでも。
珍しいが故に。ちょっとウキウキしてしまうのも事実で。
「青子〜〜」
スリッパの音をパタパタとだらしなくさせながら、居間に戻って。
「雪、降って来たぜ」
声を掛けた時には。
幼馴染はもう狭い黒羽家の庭の中央。空を仰いで、伸ばした片手を仕切りと泳がせている。
快斗の声も耳には入っていないようだった。
……寒いってのに。
炬燵にもぐっていたそのままの格好で。庭用の突っ掛けで。コートも着ないで。
「青子」
「あ、快斗!?雪だよ雪!!ねえ、雪降ってきた!!」
「おう。さっき俺がそう言ったろ」
「え、ゴメン。全然気がつかなかった」
「寒くねぇのかよ」
「うん。別に。ねえ、雪だよ雪」
「コート取って来てやろうか」
「ううん。要らない。ねえ、快斗、雪」
「わかってるって」
「凄いよ。ドンドン降ってくる」
「積もりゃしねぇよ」
「うん。でも綺麗だよ。快斗もおいでよ」
「やなこった」
「なんでー?」
「寒いじゃん」
「寒いよ」
「寒いのやだ」
「でも雪降ってるよ」
……雪が降ったからって。体感温度が変わるわけでもなく。
「俺はこっちでいいよ」
「ええーー。快斗じじむさいよ」
「青子だってさっき、俺の母さんに年寄り臭いって言われて、臭くていいもんとか言ってたくせに」
「だって。雪降ってなかったもん」
「関係あるのか?」
「大有りだよー」
「俺には関係ないね」
「ええーーー。だって雪だよ、快斗」
「全然理由になってねぇって」
「なってるもん」
「どの辺が?」
「雪が降ってる」
「だーかーらー」
全く埒が明かない。
「んなに嬉しいわけ?」
「うん」
「そんなに雪好きなら、雪国住めよ」
「ダメだよ。だって、KIDが雪国に出るなんて聞いたことないもん」
当たり前だ。んな寒いとこに行ってたまるかっての。
「怪盗KIDがなんの関係があんだよ」
「だって。東京離れちゃったら、お父さんが怪盗KID捕まえられないじゃん」
「だーいじょうぶ。大丈夫。いっくらここで頑張っててもあのヘボ警部じゃKID逮捕なんて夢のまた夢だから」
「ひどーーーーい。それに、雪国は大変なんだからねー!!毎日毎日雪降って」
「雪好きなんだろ?いいじゃん」
「あのね。青子はたまにしか振らない雪が降ってるから嬉しいの。毎日降ってたら嬉しくない」
「我侭だなーー」
「あのね。雪は、怪盗KIDなんだよ。怪盗KIDが毎日来たら困るじゃない」
「なんだよそれ」
さっきから連発されるその名前に。努めてポーカーフェイスで返す。
鎌、かけてるわけじゃねぇだろな。そう疑ってしまうのは自分に後ろ暗いところがあるから。
「だって、白いじゃない?」
「そんだけかよ」
「フワフワして、捕らえどころがなくて、そんで消えちゃうんだよ」
「まあ、そうだけどよ」
「捕まえようと思って、こうやって手を出すと」
スローモーションのように青子の手が伸びる。
空を見上げて。何かを請うように。
その表情に。
不覚にもドキリとさせられて。
同時に。鈍い痛みが胸に走る。
なんで、そんな顔をする。
なにを、考えている。
空を見つめるその先にいるのは、自分、ではない。自分の分身。否。自分の中の、別人。
それなのに。
どうして。なんで。そんな顔を、する。
今すぐ庭に飛び出して。後ろからぎゅっと抱きしめて。
そんな顔をするなと。
そう言ったら。
「……捕まえられないんだよね。雪って」
「そうかよ」
「だから、怪盗KIDは雪なの。わかった?」
「全然わかんねぇ」
「もうーー!!なに聞いてたの?」
「聞いてもわかんねぇもんはわかんねぇの」
「ひっどーーーーい。快斗のバカ!!バ快斗!!」
「なんだとこのおこちゃまアホ子が!!百年早いんだよ」
「何が?」
「雪が怪盗KID〜〜〜なんてちょっと洒落たっぽいこと言いやがって」
「青子、そんなこと言ってないよ」
「はぁ?」
アホを通り越して。ボケてしまったのかと。一瞬本気で不安になる。
「青子じゃないもん。お父さんが言ったんだよ」
ああ。
酷く、安堵。
さっき。手を伸ばした青子の視線の先に居たのは。
恐らく今、青子にとっての最愛の人。
……おじさんには、勝てないんだよな。まだ。
「おじさんが?」
「そう。怪盗KIDは雪に似てるって。待っても待ってもなかなか現れなかったり。そうかと思ったらたくさん現れたり」
「……」
「追いかけても、追いかけても、全然捕まらなくて。そんで、消えちゃうの」
「そりゃ逃げるさ」
「お父さんね、不安なんだって」
「何がだよ」
「今度こそ怪盗KIDを捕まえないとね。また。居なくなっちゃうんじゃないかって」
「え」
「今怪盗KIDよく出て来てるけど、でもちょっと前まで出て来なかったでしょ?」
「まあ、なあ」
「だからね。今のうちに捕まえておかないとまた出て来なくなっちゃうかもしれないって」
「そりゃねぇんじゃねぇか?」
「なんで快斗にそんなことが分かるのよーーー」
「いや、まあ、なんとなく」
「雪と一緒だよぉ。次があると思ってたら、甘いんだから」
「……」
「だからほら快斗もぉ!!折角雪降ってるんだから」
「……はいはい」
中森警部の、不安は分からなくも、ない。
多分、毎回毎回。自分が仕事をするたびに。これが最後かもしれないと。
これを逃すと次のチャンスはもうないかもしれないと。
不安になりながら。追って、追って、追って、追い続けて。
逃げられて。
……当たり前だ。こっちは捕まるわけに行かないんだから。
また不安になって。
そして。
次の予告状に。ホンのちょっと安堵するのだろう。
……それは、分かる。分かってる。分かってる、けど。
「ねえ、ほら!!快斗もーーーーー!!」
屈託のない青子の声に。小さく溜息。
呆れてるわけではない。
ただ、酷く。心が安らいで。
笑みと一緒に、溜息一つ。
「しゃーねーなー」
不承不承を装って。母親が脱ぎ捨てて行った赤い花柄の半纏を着込んだ。
「快斗、似合わない」
「うっせーな。俺は寒いのは嫌なの」
わざと緩慢な動作で、庭に出て。青子の隣に立つ。
やっぱり、寒い。
そして、雪。
相変わらず、チラチラと、チラチラと。
積もらない雪が、低く垂れ込めた空から舞い落ちては、地面をほんのりと湿らせていく。
「雪だな」
「だからさっきからそう言ってるでしょ?」
「他になんて言えばいいんだよ」
「ま、快斗はバ快斗だからしょうがないか」
「んだとこらぁ。今日はズボンだと思って油断してるとケツ触るぞ」
「何よそれ!!快斗のエッチ!!」
ヒラリと体をかわして、軽い足取りで青子は、狭い黒羽家の庭を逃げる。
「知ってるか?青子」
「え?」
「雪ってこうやって捕まえるんだぜ」
真っ直ぐ、水平に手を伸ばして。
「なあに?快斗。手品?」
「ばっか。タネも仕掛けもあるかよ」
「快斗いっつもそう言うんだから」
「今度はホント。青子もやってみろよ」
「ええー」
不服そうに鼻を鳴らしながら。それでも青子は快斗にならって手を伸ばす。
「快斗。手ぇ冷たいよ」
「バッカ我慢しろって。そろそろ落ちてこねぇか?」
「え?あ!!」
チラチラと舞う雪が。遂に青子の手のひらに。
謀ったかのようにその真ん中に。
「ホントだーーー!!」
「当たり前だろ?んな軽いもん、こっちから手を伸ばしても風圧で逃げられるだけだって」
「青子そんな難しいことわかんなーい」
「ばっ!!わかんないわけねぇだろ!!お前、人の話聞いてないだけなんじゃねぇのか?」
「だってそんなことどーでもいーじゃん。ねえ、快斗!!凄いよ!!ドンドン降ってくる」
「冷たくないのかよ」
「冷たくないよ。雪だもん」
最早、突っ込む気も起きない。
……ホントに。単純なんだかお手軽なんだか。
ここは一つ、手摺にうっすら積もった雪を集めて。小さな雪だるまでも作ってやろうか。
そんなことを考えて、気配を殺して手摺に近づく。
と。
「そっか」
心なしか少し沈んだ声に。快斗は慌てて幼馴染を振り返った。
「……怪盗KIDって、待ってれば捕まるんだ」
「バァカ。んなわけねぇだろ?んなもんと一緒にすんなよ」
「そっか、そうだよね。そうじゃないと困るよ」
「なんでだよ」
「だぁって」
振り返る幼馴染は極上の笑顔で。
「だぁって。お父さんは追いかけるのが仕事だもん。待ってるだけなんて、できないよ」
……ったく。卑怯だろ?その笑顔は。
***
怪盗KIDの捕まえ方。
ただ手を差し伸べて。待っていればOK。
……但し、この方法。
中森青子専用です。
お父さん大好きっこの青子が大好きです!!
あと、あれですよね。快斗は銀三さんとも仲がいい(?)、つか、銀三さんのことも好きなので<怪しい意味じゃなくて普通に。
だから『怪盗KID』であることに二重の切なさが!!いやん萌え!!
中森警部と青子の一番傍に居ながら『怪盗KID』をやるのは結構切ないですよね〜〜〜〜vvうふ。うふふふ。
……アホですみません。つか、私なんかが快青語ってスミマセン(爆)
つか、うちの青子ちゃんはあんまり人の話聞かない気がするのは気のせいですか?(笑)
なんつかこう、何かに必死になると周りをシャットアウトすると言うか、入り込んじゃうイメージで。違うかな。
最後に。最後の最後まで、寧ろ最後が一番、ラブ足りなくてごめんなさい。本人は思いっきり「快青」のつもりで書いてます……(爆)
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