誰もいない新一の部屋。
やっぱりね。さすがに、そんなに早くは帰ってこれないよね。
携帯に入ったメールは、たった一言「終わった」だけ。それでも、蘭はすぐに工藤家に駆けつけた。新一は、まだ帰っていない。
でも。
誰もいなくても、この部屋は少し前から変わった。ちゃんと、主の気配を残している。
「新一……」
手にしていた上着を手近にあった椅子の背にかけ、蘭は引き寄せられるように部屋の隅にあるベッドへ近づいた。
新一の、匂いがする気がする。
浅く腰掛けて、無意識のうちに枕に顔を埋めた。
新一の、匂いがする。蘭はそっと枕を撫でてみる。そんな自分の姿にさすがに顔が赤くなった。
これはちょっと、やばいよね。
合鍵を渡されてるとはいえ好きな男の部屋に主の留守中上がりこんで枕の残り香に浸ってるのは、どうかと。
蘭はゆっくりと体を擡げ、そのままベッドに深く腰掛けると壁に凭れて天井を見上げた。
肩の力を抜いて、両足をみっともなくないくらいに軽く投げ出すと、なんだか自分が部屋の一部になったようにリラックスできる。
ずっと、主を欠いていた部屋。
今はあの時に比べるとずっと暖かい。新一の、気配がする。
「もう、どこにも行かないよね」
***
「これは、ちょっと、反則じゃねぇ?」
遠くで聞こえる声に、蘭の意識は引き戻された。新一の声だ。
いつの間にか自分が寝てしまっていたことに気付く。壁にもたれた姿勢のまま、器用に寝てしまったらしい。
「ん……」
そっと瞳を開くと、ぼんやりと新一が見える。
「留守中、部屋に入ってるのはいいけどさ。ベッドの上でお出迎えって、これは据え膳ってことなわけ?」
「ん〜〜」
蘭は一生懸命自分の意識を覚醒される。なんだか、不穏な台詞を聞いた気がする。
声を聞いただけで、新一が悪巧みをしている時のあのちょっと意地の悪い笑顔が脳裏に浮かぶ。
「ま、今日はこれで許してやるかな」
「え……?」
不意にスプリングの利いたベッドが上下に大きく揺れ、新一が飛び乗ったことが分かった。
当たりをつけていたのか器用に着地し、ゴロンと横になる。ちょうど、新一の頭が蘭の太股の部分に納まった。
「新一!!」
「膝枕だよ。いいだろ、これくらい」
「い、いいけど」
蘭は赤くなった。意識が一気に覚醒する。
「横向いちゃ、ダメだからね」
今日のスカートは短目なので、横を向かれると……パンツが見えてしまうかもしれない。
「おお。そいつは気付かなかったなあ。実は美味しいポジションじゃん?」
「もう!!新一!!」
「冗談だよ。今日は我慢してやるよ。ちょっと……疲れたしな」
「新一……」
現場に呼び出されるのはいつもの事だし、新一だって好きでやってることなのだが。それでも疲れるものは疲れる。
「御飯、どうしたの?お腹空いてる?何か作ろうか?」
「あー……」
今度は新一の方が眠そうな声を出す。
「飯は……食ってないけど……」
「じゃあ、何か作ろうか?」
「今はこっちの方がいいな……」
「……」
新一の瞳が軽く伏せられる。案外に長い睫が二、三度瞬かれた。
「新一……」
新一の頭がずれないように、壁に預けていた上半身をゆっくり起こすと、蘭は手を伸ばして新一の髪に触れた。それから、そっと頬に。
「ホントに、帰ってきたんだね」
「あ?」
新一が少し顔をずらして蘭と視線を合わせる。見上げられて、その顔がなんだか凄くあどけなくて、蘭は何故だか泣きたくなった。
「あったりめーだろ?俺が帰ってくる場所は、ここしかないんだから」
「そうだね。自分の家だもんね」
「ちげーよ」
不意に新一の右手が伸び、器用に蘭の髪を撫でる。
「俺が帰ってくる場所は、お前のとこしかねえって、そう言ってんだよ」
「新一……」
「なんだよ。泣いてんのか?」
「泣いてないよ」
「……勘弁しろよ。お前に泣かれると、俺、どうしていいか……」
新一が右手を下ろして視線をそらす。なんだか子供が拗ねたような表情になる。
「もう二度と、泣かさないって、誓ったのにさ」
「泣いてないよ」
蘭は、静かに微笑んだ。
「泣いてないよ」
新一が再び視線を擡げる。
「ごめんな。この前は、最初にドジってエラく長引いちゃったけど……。もうあんなドジはしねぇよ。蘭をこんなに待たせたりしねぇ」
「うん」
「ちゃんと、帰ってくるからさ」
「うん」
「今日みたいに、ちゃんとすぐ終わらせて、帰ってくるからさ」
「うん」
脚に掛かる新一の頭の重みがちょっと増した。新一が体の力を抜いたのがわかる。
蘭は再びその髪を軽く撫でた。何度も、何度も撫でてるとなんだか子供を寝かしつけてるような気分にもなる。
「蘭は、あったけーなー」
「え?」
「帰ってきたんだなー、って実感できるんだよな」
「……」
どうしよう。なんだか。
蘭は小さく深呼吸した。胸がドキドキする。口を開くと新一への想いが溢れ出てしまう気さえする。
引き寄せられるように頭を屈めたが、思い直してゆっくりと顔を離した。新一は寝てしまったのか、身動ぎもしない。
ちょっと、この体勢では……届かないのだ。すぐ目の前にある、新一の唇には。
なんだか自分からそんな気になってしまったことが恥ずかしくて、蘭は小さく笑った。
「なんだよ」
「え?」
急に脚にかかってた重みがなくなり、蘭は少し体勢を崩す。勢いよく飛び起きた新一の右手が蘭の左肩にかかり。
そして。
ぶっちぎりですが、ここで終わり。後はまあ、ご想像にお任せします。はい。どこまででも〜〜<?
なんだか、訳もなくラブラブが書きたかったんで、シチュエーションもプロットもあったもんじゃないですが、見逃してください。
さあ、ここで問題です!!蘭ちゃんの「新一……」は何回出てくるでしょう!!ううう。もう少しなんか、ぼきゃぶらりぃっちうもんを増やします。
私的に新一の萌えポイントとしては、実は結構言葉づかいが乱暴なこと。一見坊ちゃん坊ちゃんしてるような気がしなくもないんですけど、その辺が親しみやすいというか。
平次が延ばすときは小さい母音(例:おめぇなぁ)、新一が延ばすときには「ー」(例:おめーなー)
そんな感じ<だからどうした
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