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なんつか。映画に補完。本編の本筋をなるべく変えないようにしてますが……ちょっと平次には重傷をおってもらおうかと……<酷!!
だってそうしないと新一が!!新一が登場した意味が!!いまいち薄くてーーーーーーーー!!嫌ーーーーーーーー!!
そんなこんなで書き始めた妄想の十字路ですが、なんとなくほんのりやっぱり平和度が高く……切腹。
台詞の間違いとか、その他諸々はどうぞ御容赦ください。本編を思い出しつつ読んでいただけるとありがたいですーー。
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(最初の方はとりあえず本編のままで)
(とりあえず犯人と平次の木刀勝負のシーン、和葉が駆けつけたところから〜〜補完vv)
「平次!!大丈夫!!」
「和葉……刑事は……」
「そんなん嘘に決まってるやん!!」
「お前……いつの間に……おっそろしいオンナやなあ……」
「平次!!??」
声が擦れ、後は荒い呼吸の音しか聞こえない。思わずその両肩を揺さぶりかけた和葉は反射的に右手を引いた。
「なにこれ!!血……。平次!!凄い血ぃやで!!大丈夫!!??」
「……」
「平次!!??」
額と。そして切られた左肩の傷は想像以上に深かったらしく、激痛が平次を襲う。
「だ……いじょうぶ……や……」
「アホ!!何言うてんの!!こんなに血ぃ出てんのに!!待ってて!!すぐ救急車呼ぶから……」
「……すまん……な……」
意識が遠のく。やがて遠くにサイレンの音が聞こえた。
(というわけで、平次重傷決定<酷)
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誰かに。ずっと手を握られていた気がする。暖かな感触が手のひらに残っている。平次は、ゆっくりと目を開けた。
「平次!!気ぃついたん!!??」
「よかったぁ……」
(すみません。以下、台詞ちゃんと覚えてないし。本編どおりで。途中でこんな台詞希望)
「平次、これ」
「ん?」
「昨日の服、血ぃで汚れてもうたから。おばちゃんが、新しいの持って来てくれたよ」
「!!おかん来たんか!!??」
「……昨日の晩来たんやけど……先生に話聞いたら、大したこと無いから大丈夫や、言うてもう大阪帰ってもうた……」
「あのオバハン……」
「まあまあ、平ちゃん。静華さんは平ちゃんのこと、信頼しとんのや。せやから、あんまり無茶は……」
(で、また本編どおり。蘭が病室に戻ってきて平次・コナンがいないことを確認するとこまでワープ)
「やだ……」
布団はまだ暖かい。コナンが座っていた椅子も暖かい。二人が部屋を出たのはつい先ほどらしい。蘭は慌てて病室を出る。それらしい人影はもうないが、とりあえず階下に下りて病院を飛び出した。
「もう!!コナン君ったら……。服部君怪我してるのに……一緒にいなくなっちゃうなんて……」
あの二人のことだ。どうせ捜査の続きに行ったに違いないが、流石に平次の傷の具合が気になる。
病室に脱ぎ捨てられていた病人服には血はついていなかった。とりあえず、傷はふさがっているのだろう。
それにしても、心配は心配だ。
……和葉ちゃんに、連絡しておいた方がいいかしら?それとも余計な心配をかけてしまうだけ?
「どうしたの?蘭」
「園子」
病院の前で携帯を握り締めて逡巡する蘭に、園子が声をかける。昨夜、和葉と一緒に蘭とコナンも病院に泊まったため、小五郎は寺に戻り、園子は空き室がとれたので少年探偵団と阿笠博士と一緒にホテルに泊まったのだ。子供たちには、平次の様子は「少し怪我をしただけ」としか伝えていない。
「どう?服部君の様子。意識は戻ったの?」
「歩美ちゃんたちは?」
「ああ、大丈夫よ。今阿笠博士と近くの甘味処であんみつ食べてるわ。病院の中じゃ電話も繋がらないだろうし、博士も心配してるから私ちょっと抜けてこっちに来たのよ」
「そうか……ごめんね、園子。そっち任せっぱなしで……」
「いいのいいの。あたしも子供、嫌いじゃないしね。それより服部君は?」
「うん……意識は戻って、出血も止まったみたい」
「あら、よかったじゃない。じゃあ、和葉ちゃんも一安心ね。少しは寝たの?」
平次の身を心配した和葉が、昨晩殆ど寝ていないことは園子も知っている。昨夜ホテルにチェックインしてから一度病院に顔を出した時には、意識の戻らない平次の手を握って静かに泣いていた。流石の園子も「大丈夫だよ、きっと」と声をかけるのが精一杯だった。
「大丈夫だよ。服部君、すぐ目を覚ますって」
「ん。平次、こんなんであかんくなるほど、やわくないし」
「そうそう。そんなに泣いてると、起きた時に服部君にまたデコピンされちゃうわよ。『何泣いとんのや、アホ』って」
「ん……。ありがと、園子ちゃん」
気丈に答える様子に、寧ろ平次のことより和葉のことの方が心配なったくらいだった。
「うん……明け方泣き疲れて寝てたみたい」
「まったく、あの男も果報者よねえ。じゃあ、今は病室に二人っきりだったりするのかしら?」
「それが……和葉ちゃんもさっき用事が、って出掛けちゃったんだけど、今病室に戻ったら服部君もいないのよ。それに、コナン君も……」
「二人で逃避行、ってわけじゃないわね。ガキンチョ付きじゃ。元気になったと思ったら、また捜査?」
「多分……。でも、服部君、頭を打ってるみたいで……精密検査しないといけないんだけど……」
本来なら昨日の深夜に急患扱いで受けるはずだったのだが、より急を要する患者が入ってしまい、とりあえず容態の落ち着いている平次は精密検査は今日に回されていたのである。
「え?まだ受けてないの?」
「うん」
「まあ、起き上がって出掛けられるんだったら、大丈夫なんじゃない?」
「そう思うんだけど……。ねえ、和葉ちゃんに知らせておいた方がいいかなあ」
昨日の心配ぶりを知っているだけに、園子も一瞬戸惑う。
「一応……知らせた方がいいんじゃないかな。知らないところで何かあったら、後で知った時やっぱつらいじゃない?」
「そうだよね」
急いで携帯のボタンを押したが、携帯からは無機質な声しか聞こえてこなかった。
「どうしたの?」
「電波……繋がらないみたい。どこに言っちゃったのかなあ。和葉ちゃん……」
***
(というわけで本編平次&コナンの電車の中シーンに繋がって、水尾邸→千賀鈴さん手毬歌→大滝さんからの電話までワープ。この電話で以下の会話は私的に必須!!)
「そんで、平ちゃん。実は、本部長から伝言があるんですわ」
「お、オヤジからか」
「ええと……そのままお伝えしますけど……『剣でやられたらしいな。戻ったら覚悟せぇ。未熟者』……て言うてはりました」
「あんのオヤジ……怪我人をなんやと思てるんや……」
「せやけど、平ちゃん。ホンマ、無理はせんとってくださいよ。私が本部長に合わせる顔が……」
「わかってるわかってる。おおきに、大滝ハン」
「あ、平ちゃん!!」
(うふvv夫婦揃って伝言登場vv妄想なんだから実物登場でもええやんって気もしますが。とりあえず山能寺に戻る二人)
***
「ちょっと、二人とも!!」
水尾邸から戻り山能寺の門をくぐると険しい声が飛んできた。振り返らずとも声の主は分かる。
「ら、蘭姉ちゃん……」
「な、なんや。姉ちゃん。怖い顔して……」
腰に手を当てて仁王立ちの蘭の隣に、険しい表情の園子もいる。コナンと平次は顔を見合わせると小さく苦笑した。
「なんだじゃないでしょう!!二人とも。服部君、まだ検査受けてないのに。絶対安静ってお医者さんに言われたじゃない」
「だ、大丈夫やで。あんなん大袈裟に言うてるだけやで。ほら。俺はもう、ピンシャンしとるし。な、なあ、コナン君」
「う、うん。平次兄ちゃん、ずっと元気だったし……ねえ」
「何言ってるのよ。頭打ってるんだから、何があるかわかんないわよ。大体、肩の傷だって、まだ全然……」
「大丈夫や、ほら、俺普通の奴より丈夫やから。それより、他の皆は?」
平次の愛想笑いにも、蘭の眉間の皺は消えない。軽く二人を睨んで、それでも諦めたように溜息をついた。
「お父さんは向うにいるわ。なんか、白鳥警部がもうすぐこっちに来るって連絡があったから私たちも一緒に来て待ってるの。あ、そうだ。ねえ、服部君」
「なんや?」
「和葉ちゃんから、連絡なかった?」
「和葉から?」
今度は平次の眉間に皺が寄る。
「なんや、あいつ。まだ戻ってへんのか?」
「うん。服部君、何処に行くか聞いてる?」
「いや……なんや、ちょっと出掛けてくる言うてたけど……」
「携帯に連絡しても、繋がらないのよ」
「え?電波、届かないの?」
コナンが鋭く平次に視線を投げる。
蘭が電話をかけに行き、病室に三人取り残された。和葉の目が泣きはらしていることに、気付かないコナンではない。すぐに席を外そうと思ったのだが。
それよりも早く和葉が立ち上がった。
「平次。アタシ、ちょっと用事思い出したから。出掛けてくるわ」
「用事って、なんやねん」
「内緒や。すぐ戻るから、平次はここで大人しくしてるんやで」
「こんなん、大丈夫や言うてるやろ?」
「あかんあかん。コナン君、平次が無茶せぇへんように見張っといてや」
「う、うん」
「ほな、行って来るから」
ポニーテールを揺らして未練なく病室から出て行った。その後、結局「大丈夫」と言い張る平次に押し切られて水尾邸に向かったのだが。
どうせ、平次の意識が戻ったことを静華にでも電話しに行ったのだろうと思っていたのだが。まだ帰っていない上に携帯の電波が繋がらないというのはおかしい。
「蘭姉ちゃん、あの後ずっと病室にいたの?」
「え?うん。コナン君たちがいないのに気付いて一回外には出たけど。その後はずっと病室にいたよ?和葉ちゃんや、コナン君たちが戻ってくるかもしれないでしょ?園子も一緒にいてくれたし……」
ということは自分たちを探しに行ったというわけでもなさそうだ。
「でも、何度か病院の外から携帯鳴らしたけど、全然つながらないし。そしたらお父さんから連絡があったからこっちに来たの」
「……なんや、あいつどこ行きよったんや……」
平次の声にはほんの僅かに焦りの色が見える。和葉に、京都で一人で行く場所がそんなにあるとは思えない。
何や、事件の手がかりでも掴んだんやろか……?
だとしたら、自分に連絡がないのはおかしいし、縦しんば病院にいると思って携帯が鳴らせなかったにしろ、こちらから連絡が取れないというのは……。
ありえないことではないが、何かが、おかしい。
和葉が何か手がかりをつかむとしたら、梅小路公園以外には考えられない。しかし、あの公園は電波状態がそれ程悪いとは思えない。
もう一度。平次がポケットから携帯を取り出した時に。
「やあ、皆さん、おそろいですね」
白鳥警部の声に4人が振り返る。
「蘭さん、毛利さんはどこですか?ちょっと情報を持ってきました」
「情報?事件のか?」
「まあ、何処まで役に立つ情報かはわかりませんが……一応、容疑者の可能性があるあの4人の中の1人の……」
「誰や?」
「千賀鈴さんですよ」
「千賀鈴さん?」
「ええ。まあ、中に入りましょう。毛利さんが待ってるはずです」
「あ、ああ……」
白鳥警部に促され、平次は握っていた携帯をポケットに戻した。
「いいのかよ」
「あ……ああ。まあ、後でも……ええやろ。あいつのことや、携帯の充電、切れてもうただけかも知れへんし……」
動揺を隠すように視線を泳がす。それが。幼馴染の行方が知れないことからの動揺なのか。初恋の相手と目される女性の名前が出たことに対する動揺なのか。計りかねてコナンはその後姿を注意深く観察した。
後ろで、僅かに無機質なコール音が聞こえる。
「どう?蘭」
「だめ。まだ繋がんない」
「珍しいよね……和葉ちゃんが何もいわずにいなくなるなんて。服部君にも連絡がないとは思わなかったな」
「うん……」
***
(白鳥情報→小五郎ピンぼけ推理→絵解き→平次眩暈休憩水晶の謎解き→仏光寺到着までは本編どおりで)
「おい、待てや!!何がわかったちゅうねん!!」
勢いよく仏光寺の山門を飛び出すコナンを追おうとした時、平次は再び視界が揺れるのを感じた。
なんや……また眩暈が……。くそ!!やっぱあん時頭打ったせいやろか……。
思わず山門に手をつき、二三度頭を振る。急いで何かを注視するコナンに近寄った。
「これは……」
玉龍寺跡の文字。あの絵解きの点は、これを示していたのだろうか。平次は霞む視界の中頭をフル回転させる。と。
携帯が鳴った。
着信画面には幼馴染の名がある。ふっと平次は安堵した。
ったく。皆に心配かけて、なにやっとるんや、あいつは。
絶対安静の診断を無視して病室を抜け出した自分のことは棚の上どころか天井裏に押し上げて、苦笑する。通話ボタンを押した。
「この娘は預かった」
「何!!」
幼馴染の声とは似ても似つかない低い声と不吉な言葉に、全身に鳥肌が立つ。常ならぬ平次の様子にコナンが鋭く振り返る。
「返して欲しけれ一時間後に鞍馬山玉龍寺に一人で来い。警察に連絡すればこの娘の命はない」
「平次!!来たらあかん!!殺されてまう!!」
「なんやと!!??和葉……和葉ぁ!!」
一方的に切られた電話に向かって空しく叫ぶ。
今。電話の声はなんと言った?「この娘は預かった」。掛けて来た電話の持ち主は、和葉。そして電話の向うから聞こえてきた声を聞き間違えるはずが無い。
「どうした?服部」
「和葉が……和葉が攫われてもうた……」
「なんだと!!??」
「一時間後に一人で玉龍寺まで来い言うてる……」
「なにぃ!!??」
コナンがもう一度石碑を振り返る。奇妙な違和感と、直感。やはりあの点はこの石碑を意味していたのだ。玉龍寺。宝はそこにある。しかし……そこに呼び出されたということは、どういうことだ?敵は宝があることを知らないのか。それとも、寺の何処に宝があるかを知りたいのか。
宝……玉龍寺……宝……玉……。
「上等じゃねぇか」
不敵な笑みを浮かべる。和葉が囚われてしまった不利はあるが、手はある。
「今から二人でその玉龍寺へ乗り込んで……」
「アホ、敵は俺一人で来い言うてんのやで?俺一人で十分や」
「何言ってるんだよ、服部。おめぇ、肩の傷もあるし本調子じゃねぇだろ?」
「和葉を……これ以上危険な目ぇに会わせるわけにはいかんやろ」
「だからこそ、俺も行った方がいいだろ?みすみす敵の罠に嵌る必要はねぇよ」
「アホ。んなみっともない真似できるかっちうんや」
「何言ってんだ。そりゃ一人で遠山さん助け出したいおめぇの気持ちもわかるけどよ」
「俺は卑怯な真似すんのが嫌なんや」
「卑怯とかそういう問題じゃ……って、服部!!??」
ゆらり、と平次の体が揺れる。慌てて手を差し伸べたコナンだが、平次は辛うじてバランスを保って足を踏みしめた。
「大丈夫や……これは俺が売られた喧嘩や。工藤は手ぇださん……で……」
「バカ!!おめぇ、フラフラじゃねぇかよ!!」
「くそ!!なんで……こんな時……に……」
「変な意地張って、遠山さんに何かあってからじゃ遅ぇだろ!!とりあえず一度病院行くぞ。まだ一時間ある」
「す、すまん……な……」
壁に凭れた平次の体がズルズルと地に落ちていく。コナンは急いで阿笠博士の携帯を鳴らしつつ、横目で平次を見やった。
ふと、過去の自分が交錯する。
『こんな時に』
蘭に伝えたい言葉も伝えられないまま。急激に体温を上げた自分の体。弾けてしまうのではないかと思うほど強く打った心臓。身に覚えのある体の異変。
まだ、何も伝えていなかったというのに。
『こんな時に』
「おー、新一。どうしたんじゃ」
携帯の向うから聞こえてきた呑気な声に、正直一抹の苛立ちすら覚えた。
「悪ぃ、博士。ちょっと蘭たちに……誰にも内緒でここまで来てくれ。タクシーで、仏光寺までだ。あ、灰原は連れてきてくれ。え?今いない?わかった。こっちから連絡する。頼む、蘭たちには知らせないでくれ」
***
「蘭は?」
タクシーの運転手と阿笠博士の二人掛りでなんとか意識を失った平次をタクシーに押し込み、梅小路病院を目指す途中。一連の事情を阿笠博士に話し終えるたコナンはふと顔を上げた。
「蘭は?今あいつ、どこにいる?」
「さあ……山能寺にはおらんかったようじゃが……園子君が一度ホテルに戻ると言っておったから、一緒にいったのかもしれんなあ」
「そうか……頼む。博士。蘭たちにはこのことは……」
「しかし、警察にくらいは連絡しないといかんじゃろ。平次君がこの様子じゃ、和葉君を助け出すのには……」
「警察じゃ、だめなんだ!!」
低い叫びに博士が言葉を切る。
「遠山さんを助けるのは服部じゃなきゃ……他の誰でもだめなんだ……」
「そ、それは、わからんでもないが……だがどうするんじゃ?病院に運んだ所で平次君の傷がそんなに簡単に治るとは……」
「なんか手はねぇのかよ……なんかさ……傷があっという間に治る薬とか灰原が……」
「く、工藤君、落ち着くんじゃ。ここは冷静に……」
「ごめん……博士……」
そうだ。焦っている場合ではない。何か手を考えなければ。
あの時。あの時戻ってくるのが江戸川コナンでは駄目だったように。工藤新一でなければ駄目だったように。
遠山さんを助けるのは、服部じゃなきゃ、駄目なんだ。
そうでないとまた繰り返しだ。またあの時の……あの時の蘭のような思いを遠山さんにさせてしまうだけだ。あの時の俺の口惜しさを、服部が味わうだけだ。
「くそっ……」
タクシーが病院に滑り込む。連絡してあった為、玄関までストレッチャーと医師達がスタンバイしていた。タクシーから運び出されても、平次の意識は戻らない。
「先生、服部は……」
「まだなんとも言えないよ。何しろ検査をしていないんだ。絶対安静と言ったのに……」
「ご、ごめんなさい……」
「ま、今更言っても仕方が無い。だが、今度こそ絶対安静だ。何かあってからじゃ遅いんだからね」
「わ、わしからもちゃんと言っておきますので……」
「くれぐれも頼みますよ。手遅れになってからじゃ遅いんですから」
カラカラと乾いた音が廊下を遠ざかっていく。コナンは乱暴に前髪を掻き毟ると、一つ大きく溜息をついた。
駄目だ……焦っちゃ駄目だ……。だが時間は無常にも刻々と過ぎていく。病院から鞍馬山までは決して近くない。
「どういうことかしら?」
「灰原……」
「さっきの電話よ。急に、どうしたの?」
「……」
いつの間に病院に着いたのか、灰原哀が静に立っていた。コナンは静かに振り返る。
「……どう思う?」
「やってみる価値はあると思うわ。白乾酒の効果の詳細はまだ分からないけど……あの薬で風邪の症状を引き起こせばあるいは……」
「おめぇにとっても悪い話じゃないはずだ。少しは、役に立つデータが取れるんじゃねぇか?」
「……本気なの?」
「それしか、手がねぇ」
平次の病室に向かうべく歩き出すコナンの後ろを哀がついていく。
「あの薬は伊達じゃないわ。発熱、動悸、その他諸々……風邪の症状は如実に出るのよ。貴方、白乾酒を飲んだ時の事、忘れたわけじゃないでしょう?」
「ああ……」
「私だって覚えているわ。元に戻れたものの、禄に体は動かなかった。そんな体でどうする気なの?」
「……工藤新一じゃなきゃ駄目なんだ……。服部の振りをするのにこの体じゃ……」
「服部?彼、どうかしたの?」
「今病室だ。昨日の怪我のせいだと思うがさっき倒れて意識が戻らねぇ……だけど遠山さんが……敵の手に……」
「ふうん……」
哀のモノ問いたげな視線から逃げるように顔を背ける。低く軽く、哀が笑う。
「工藤新一に戻って彼の振りをしたところで、無事に帰って来れるかどうかすら分からないわよ?」
「戻ってくるさ」
「自由の利かない体で遠山さんを助け出して?敵はどれくらいいるのよ」
「さあ……」
「さあって。わからないの?危険だわ」
「危険でも、他に手がねぇ……」
「彼女のことは、どうするの?」
「わかってる」
問い返すまでも無く、分かっている。蘭のこと。
今まで、どれだけ待たせてきたのか。蘭が不安な時。新一として側にいたい時。そのどの時も自分は工藤新一には戻らなかったというのに。
「蘭には、会わねぇよ」
「いいの?」
「ああ。蘭に会うのは……ちゃんと戻ってからだ。こんな中途半端な状態じゃ、まだ会えねぇ……それに」
「それに?」
「あいつに会っちまったら、決心が鈍るだろ。こんな危険な真似、できなくなる。だから、会わねぇよ」
「ま、いいわ」
苦笑して肩を竦めると哀は手にしていたポーチからピルケースを取り出す。
「これよ。それから、調達しておいたわ。白乾酒。感謝してよね。この姿でお酒を買うのは、大変なんだから」
「すまねぇ。恩に着るぜ」
「高くつくわよ。まあ、データはしっかり取らせてもらうから」
時間が無い。深呼吸して平次の病室の扉を開ける。薄暗い病室には、未だ意識の戻らない平次が一人その身を不本意にベッドに横たえていた。
「博士はいねぇか。好都合だ」
「あら、どうして?」
「いらねぇ心配かける人間は少ない方がいいってことさ」
「……ちゃんと戻ってらっしゃいよね」
「あたりめぇだろ?」
小さく笑うとコナンはベッド脇に用意されたコップを取ると、白乾酒を開けた。
「オレはまだあいつに何も言っちゃいねぇんだぜ?こんな所でくたばってたまるかよ」
「……それを聞いて安心したわ」
必ず、戻るから。
もう何度も繰り返してきた言葉。それでも、今言える言葉はこれだけ。
必ず、戻るから。待っててくれ……蘭……。
必ず遠山さんのを助け出して、服部の元へ連れてくるから。
会いにいけないけど、許してくれよな。蘭なら……わかってくれるよな。
「悪ぃけど、服部を頼む。意識が戻ったらこいつのことだ。絶対に玉龍寺に行くと言い出すに決まってる。頭打ってるのも心配だが、こいつ、まだ肩の傷が全然ふさがってねぇはずだから。見張っててやってくれ」
「……わかったわ。こっちは任せて」
哀が静かに病室を出ていくのを確認してから、薬と白乾酒を、同時に流し込んだ。
***
「平次!!来たらあかん!!殺されてまう!!」
「和葉ぁ!!」
自分の声で目が醒めた。平次は軽く頭を振った。
囚われた和葉の後ろの人影。あれは、誰だ。知っている。あいつだ。弓道のことなど知らないという顔をしていたが。俺と工藤を誤魔化せるわけが無い。
奴の狙いは、あの水晶だ。折角盗んだ仏像も、あれがあるとないとでは価値が違うのだろう。
「くっ……」
ここはどこだ。俺は何をしていた?何があった?
「そうや!!和葉!!」
犯人からの電話。悲痛な和葉の叫び。急に襲ってきた眩暈。
ここが病院であることを察するのに時間など必要なかった。
「くそ!!」
点滴を力任せに引き抜く。薄暗い病室をすばやく見回した。さっきまで着ていた筈の服が見当たらない。
まさか……工藤の奴……。
目が醒めた自分が鞍馬山へ行くことを阻止する為に服を隠したのだろうか?服は兎も角、あの中には水晶が入っている。
犯人との取引ができなくなるが。それならそれで……力尽くで奪い返せばいいだけだ。和葉を。
肩の傷に手をやる。今は痛みは無い。出血も無い。麻酔が効いているだけだというのは分かっている。だが大丈夫だ。もつはずだ。
ベッドを飛び出し、扉のドアノブに手をかけたところで、ふと考えを改めた。
廊下には、見張りがいるかもしれない。工藤のことだ。その辺の抜かりはないだろう。
だが。
「悪いな……工藤。お前と警察に任せておくわけにはいけへんのや。……これは……オレの問題なんや……」
小さく呟くと、平次はベッドのシーツをひっぺがしにかかった。
***
こんな感じに補完しておりますが……どんなもんでございましょうか。駄目ですか?無しですか?ありー?
映画を時間内に収めるために削除されたであろうと頃を補完した感じですが。
だって、蘭ちゃん&園子の出番もいまいち少なかった気がしますし!!絶対白鳥警部登場前には推理オタクコンビに一言二言苦言があったんじゃないかと思うんですけど……
後はコナン。工藤新一に戻るまでの色々をね。補完したかったんです。したかったんですが!!中途半端になってしまい寧ろいらんかったかって感じですが。切腹。
そんで結局平和萌えががすがす補完されてる辺りが、どうよ自分。つか、さりげなーく、平蔵&静華補完。あっはっは<笑って誤魔化すな
つか、初書き博士に四苦八苦。こんな感じの喋り?でしたっけ?どの辺が「じゃ」になるんだろー、とか思いつつ書いてます。哀ちゃんも。ちょっと大変でした。
さてー。この後クライマックスですよ。どうするつもりですか。自分。
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