弾が中った瞬間。坂田に怒鳴りつけた時。坂田を抱えて火の中から飛び出した時。
腹の傷は殆ど痛まなかった。否。痛みは感じなかった。
血は、止め処なく流れていた。どうして自分の意志でどうにかできないものなんだろうか。そう苛つくくらいに流れていた。
が、不思議と痛みは感じなかった。
自分の傷よりも、優先すべきことがあったから。こんな傷も、流れ出る血も、なんでもないと思った。
激痛を感じたのは、運び込まれた救急車の中だった。
***
このメンツは、どうかと思う。
救急車の中だから当たり前だが、救急士が一人。そして和葉。そして、何故か工藤と、そのねーちゃん。
何でお前らがここにおんねん。おい、工藤。こんな俺を見んなっちうんや。みっともないんに。嫌味か、こら。
畜生。傷治ったら絶対張っ倒す。
悔しいが、腹が痛い。
「平次!!痛むんか!!?しっかりしいや!!」
和葉の、泣きそうな声がする。
アホ。泣くなっちうんや。俺、こんなんでくたばる気ぃないで。大丈夫やって、泣くなや。
そう言いたいのに。言ってやりたいのに。
なんでお前らそこにおんのや!!工藤!!それにねーちゃん!!降りんか、ボケ!!気ぃきかん奴らやなあ!!
いや、ちゃうで。俺別にこいつのことなん、なんとも思ってないで。ただの幼馴染や。そうや。ただの幼馴染や。
せやけどこいつが泣くのは俺は嫌なんや!!和葉には、笑っといて欲しいんや。
こいつ、笑うとめっちゃ可愛いねんで……って、ちゃう!!何言わせんのや、工藤のボケ!!
別にホンマ、なんもないねんで!!ただ、ほら、あれや。一般的な話や!!って俺、なに一人で言い訳してんねん!!
とりあえず、あれや。こいつが泣くんは、俺は嫌なんや!!
せやのに!!お前らがおったら俺、なんも言えへんやろ!!くそ!!工藤!!そこどけ!!
俺がなんか言ったら、お前、後でそれをネタにからかうつもりやろ。だから違うんや!!こいつはただの幼馴染なんや!!
あーーーーーーーーーーーーーくそーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
「それで?服部君の傷の具合は?」
「まだわかりません……とにかく早く弾取り出さへんと……」
「た、弾やて?」
何慌ててんねん。和葉。弾が中った言うてもホンマ、血ぃ出ただけやって。大丈夫やって。
ちょう、そこの救急士!!も少しなんか言えや!!死なへん、言うてやってくれ!!
こいつ、ホンマ心配性やねん。つまらんことですぐ心配すんねん。それくらいで全然安心してくれへんから。死なへん、言うて太鼓判押したってくれ。
「坂田さんに撃たれたん?」
ほらみぃ。後一歩で泣きそな声になってんで。しゃあないなあ。
腹が痛む。声を出すのは、正直辛かった。
「う、撃たれたんちゃうわ……自殺しようとしたんを止めて、たまたま当たってもうたんや……」
「なんで……なんでそんな危ないマネすんの?」
あ、やば。更に涙声になってもうた。なんて言うたらええんや。ややこしいやっちゃなあ。
「ど…どっかのアホがゆうてたんや……推理で犯人追い詰めて死なしたらアカン……てな……」
今のちょっと、俺カッコよかったか?いや、気障なだけやな。工藤の受け売りやからなあ。
喋りすぎて腹が痛い。もう少しまともに喋りたかったが、どうしたって切れ切れになってしまう。
あかん。なんや今際の言葉みたいやんか。逆効果や。
片目を開けて周囲を伺うと、案の定、今にも泣きそうな和葉が視界に入る。
勘弁してくれ。泣くなや……泣かんといてくれや……。こら、工藤。そこのねーちゃんも。和葉になんか言うたってくれ。
っちうか、工藤!!なに自分の台詞の受け売りに感動してんのや!!「あー、俺いいこと言うなあ」とか思ってんのちゃうやろなあ!!くそう!!
心配そうな瞳に注目されて、これ以上ないほど居心地が悪い。
和葉!!泣きそな顔してこっち見んな!!アホ!!大丈夫やって!!
工藤もや!!ぼんやりしてへんと、少しは和葉になんか言うたってくれ。お前、気配り利くくせになんでこないな時だけぼんやりなんや!!
ねーちゃんもや!!オレの心配なん、せんでええから!!和葉慰めたってくれや!!って、まあ、無理か。まだ初対面やしなあ。和葉、さっきまでめっちゃ意地張っとったし。
なんだかんだで人見知りすることあんねんな……こいつ。意地張ってるけど、実は結構気ぃ弱いんや。初対面の時にはついつい虚勢張ったりしてまうことがあるんや。
ま、その辺が見てて微笑ましいんやけど……って、ちゃう!!何言うてんのや!!俺!!今はそんなこと言うてる場合やない!!
ホンマに!!三人とも、そんな心配そうな目でこっち見んな、ちうんや!!くそ!!
頼むからもう放っといてくれ!!
…………。
………………。
…………寝てまお。
「ア、アカン……なんや眠となってきた……」
喋ると腹に激痛が走る。喋るんは、結構腹筋使うもんなんやなあ。知らんかったわ。
「ちょっと寝かせて……くれ……や……」
さあ、寝るでーーー。せやからもう俺のことは放っといてくれ。
「アカン!!寝たらアカンよ、平次!!」
なんでやねん。寝かせてくれや。あんな、寝れるいうことは、痛くないっちうことやで?いや、ホンマは痛いねんけどな。
なんで更に泣きそうな声やねん。勘弁せぇや。
「平次!!??」
何叫んでんねん。おーーーーーーーーーい。ちょう待てーーーーーーーーーーーーーーーーーー。和葉ーーーーーーー。
お前なんか、勘違いしてへんか?早とちりはお前の十八番やからなあ。
そもそも今回最初に付いて来たのかて、俺の言うてる「工藤」を女やと勘違いして、俺が東京の女に誑かされてると思い込んだんが始まりやしなあ。
何で工藤が女やねん。ホンマ、こいつの発想はおもろいわ。工藤が女。あ、あかん。笑ってまう。タヌキ寝入りがばれてまうわ。
ちゃんとうちでおかんとてっちりの準備しとけや、言うたんに。そこでちゃんと紹介するつもりやってんで?工藤にもあのねーちゃんにも。
お前会いたがっとったやん。それを通天閣から見張っとったって。なんでそんなエライことしとんのや。ホンマ。
……大変やったやろなー。パトカーで移動する俺ら追っかけるん。
まあ、こいつやったら俺の行く店なん、大抵把握しとるからなあ。電車で行った方が今日は早かったかも知らんな。道、混んどったし。
お?
髪に何かが触れた。至近距離で、いつも隣にある香りがする。和葉が最近使ってるシャンプーの香り。この香り、俺好きやねんなーって、いや、待て。
か、和葉!!??
「いやや……平次ィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
抱きしめられた。しかも、こいつ……泣いとるやんか!!
ちょう待て!!何すんねん!!何泣いてんねん!!
ちうか、あれや!!工藤が見てんねんで!!アホ!!後で何言われるかわからんやろ!!待て!!待てっちうねん!!離れんか!!
顔がにやけ……いや、ちゃう!!それより何泣いてんねん!!寝る言うたやろ!!俺!!死んでるわけちゃうねんで!!
慌てて起き上がろうとすると和葉の涙が俺の頬に落ちた。暖かい。和葉……俺の為に泣いてくれんのか……?
なんて言うてる場合やない!!泣かせたないんや!!俺は!!何泣いとんのや!!おい!!こら!!
ちうか、胸!!胸当たってんぞ!!こら!!デリカシィ無い女やな!!アホ!!工藤もあのねーちゃんも見てんねんで!!その前でなんつう大胆な……。
いや待て!!そんなこと言うてる場合やない!!せやけど、うわ、ホンマ勘弁や!!
工藤とねーちゃんと救急士のおっちゃんおらんかったら、押し倒してるとこやで!!ボケ!!
いや、すんません。なんでもないですよ?腹の傷が痛んで、それどころじゃないですよ?いや、傷がなくてもそんなことせぇへんで?大丈夫やで。勿論ですがな!!
って、誰に言い訳してんねん、俺。それよりこの状況を!!どうにかせな!!どうにか!!
一つ気合を入れて、腹の傷の痛みを堪えた。堪えられないわけはない。救急車に乗るまでは、堪えられたんやから!!
今は傷より!!現状打破や!!
「やかましい!!」
腹の傷が、酷く痛んだ。痛ぇ!!くそー!!
「寝かせェゆうとんのがわからんのか、ドアホ!!」
勢いよく半身を起こした。痛い。マジで痛い。なんであの火の中では痛み感じんかったんやろ。痛いって。マジ痛いって。
「アタタタタタ……」
「こんだけ元気があるんやったら、大丈夫やと思います……」
アホーーーーーーーーーーーーーーーーー!!こら、そこの救急士!!何言うてくれんのや!!痛いって。マジ痛いんやって!!勝手なこと言うなや!!
俺今、メッチャ頑張ってんのやで?痛いんやで!!??
……とは、言えへん。くそう。痛い、言うたら、また和葉のやつが泣きよる。心配かけるわけにはいかんのやけど、そう言われるとなんや不本意や。せやけどこの際しゃあないか。
「俺は昨日の晩から、大阪見物のええコース考えとってあんまり寝てへんのや!!耳元で気色悪い声出すなボケ!!」
吐き切るように一気に言った。腹の傷が更に痛む。早く!!早く病院に着いてくれ!!頼む!!
瞬間。
「悪かったなあァ……気色悪い声でvv」
腹の傷の上に、和葉の重みがかけられる。
半端じゃなく、痛い。
アホーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!何さらすんや!!この女!!大丈夫や言うたら言うたで、やりすぎや!!アホ!!ボケェ!!
「ギエエエエエエエエエエエエエエエ!!なにさらすんじゃ、アホんダラ!!!」
「アホはそっちやんか!!ややこしい寝方するんが悪い!!!!」
「お前、何考えてんねん!!俺は怪我人やぞ!!」
「いらん心配かけるんが悪いわ!!」
アホか!!心配かけまいとする俺の誠意!!少しはわかれ!!
ホンマに死んだらどないしてくれるんや!!アホ!!も少し大事にせんか!!
さっきは泣いとったくせに!!何考えとんのや!!ボケ!!
工藤も!!ねーちゃんも!!止めんか、こら!!どけ、和葉!!どけっちうんや!!
それやったらさっきの胸の方が……いや、そうやなくて!!勘弁しろ!!傷口広がるっちうに!!
ホンマ……このアホが……。
……お?………。
憎まれ口を叩き続ける和葉の瞳から。一筋の涙が落ちた。ように見えた。
「和葉……」
「な、なによ……」
和葉が少し怯んで、慌てて袖口で涙を拭う。
「な、泣いてへんもん」
「和葉、お前……」
「泣いてへんって。さっきの残りや。アタシ、別に平次が無事でも、嬉しくなん、全然」
「……」
和葉……。
思わず、和葉の頬に手を伸ばそうとした時。
「服部、お前……」
げっ……。
忘れていた。振り返ると工藤の冷たい視線と、目が合った。工藤のねーちゃんは、困ったように視線をさ迷わせている。
……畜生。
何でお前らここにおんのや!!クソーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
絶対!!絶対傷治ったらしばき倒したる!!工藤!!今度ねーちゃんとええ雰囲気作っとったら邪魔したるからな!!覚えとけ!!
いや別に、俺は和葉となん、ええ雰囲気になんなってへんで?それとこれは別問題やで。別問題やけどな。せやけど邪魔したる!!クソ!!
覚えとけ!!
台詞は原作とアニメのちゃんぽんです。一応、原作。たまにアニメ。最後にちょっとオリジナルで萌えシーン。
というわけで、救急車の中の平次の気持ちを代弁してみました。え、違うって?おかしいなあ。私には平次の心の声が聞こえたのですが。
うーん。空耳?妄想?(笑)
しかし、平次君。コナンと蘭ちゃんが居なかったらナニする気でしたかー。救急士のおっさんはいるんですよ。うふふ。
でもやっぱり不思議なのは、和葉がどうやってパトカー移動の平次一行を追いかけられたか、ってこと。たこ焼きまでは百歩譲っていいとして。
どうやって、肝心のお好み焼きやに到達できたんでしょう????あれは坂田さんお勧めだった気が。
不思議。恋する乙女の第六感ってやつか!!(笑)
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